第58話



このまま抱き締めていたら、俺も虎と同じことをしそうになる。



体を離すと頭を撫でた。

ふわふわの黒い髪。ふわっと香る石鹸の香り。



それらは、簡単に俺の理性を無くそうとする。



それでも踏みとどまっていられるのは、俺がそうすれば仁が傷つくのを知っているから。



それから、一度も仁の顔を見ることなく裏口へ出た。



『虎、何してんだよ。』



「ああ、分かってる。」



『答えになってねぇ。まさか、酔ってたからだ、とかぬかしたら殴るぞ。』



「いや、酔ってない。俺の意思」



いやいやいや!駄目だろ。



それからも虎は続ける。



「俺は仁のことが……」




「おい、二人とも?……やりすぎ。」



恭が出てきたことで、俺も虎も顔が青くなる。

笑ってる。

笑ってるけど、その裏には「てめぇら、何俺の妹に手ぇ出そうとしてんだよ。あ゛ぁ?」という意味が隠れている。

こいつはシスコンだからな。



さすが、総長だっただけあってオーラが黒すぎる。

あの頃と全然変わってない。



俺も少し落ち着くことができた。



「抱擁は、1000歩譲ってまあ許してやる。でも、付き合ってねぇのにキスなんかしてみろ?……潰すぞ。なあ、虎?」



「……ああ。」



恭も俺の後ろから見てたからな。

キス未遂の所を見ていたんだろう。



「あと、仁のこと困らせるなよ?」



『ああ。』



先程までの鋭い視線を、普段のものに戻した恭は、そのまま中入っていった。



「龍……俺は諦めないから」



『こっちの台詞』



生まれる前から一緒にいて、顔もあんま似てねぇし性格は真逆と言ってもいい俺たち。

それでも好きになった女は同じで、似たくないところだけが似た双子。



お互い諦めることも譲ることもしない。



てか、なんでいきなり行動に出てんだよ!



『なんであんなこと?』



「……なんか……焦った」



『……は?』



こいつは何言ってるんだ。

さっきから、俺の質問の答えになってない。



虎はそのまま、恭の後を追うように中に入っていった。

何か煮え切らないまま、俺もその後に続いた。








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