第44話

「お兄様の名前は、なんて言うのですか?」


「モルトワです」

 

 兄がプロのピアニストになったのは、まだ十代の時だった。 若くしてプロの道に進んだ兄を、お父様はすごく誇らしく思っていたんだと思う。

 だからこそお父様は、兄にすごく厳しくレッスンをさせていた。 兄がピアノを始めたのは、四歳の時だったと聞いている。

 

「モルトワさん、ですか。……あの、モルトワさんて確か、ヨーラ国で一度演奏してくれたことがありましたよね?」


「え?……あ、はい。確かそんな話を聞いたことがあります」


 確か兄の手紙にも、そんなことが書いてあった気がした。

 あれは確か、七年前くらいだったかな。……兄の手紙に、ヨーラ国という国で、平和を願い演奏したんだと書いてあった気がする。


「あの時の演奏は、とても美しかったです。僕もまだ十代でしたが、とても聞き惚れるくらい美しい演奏でした。……ヨーラ国の平和を願っての演奏は、素敵でした」


「そうですか。……兄はそんなにすごい人なんですね」

 

 こう言ってはなんだけど、兄とはしばらく会っていないせいか、兄の顔もあまり覚えていないのだ。


 お兄様、元気にしてるのかな。

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