第54話

なんだか分かりきった言い方だ。



「………………………退いて。私、忙しいの」



「…………チッ」



パーカー男を押し退けて中に入ろうとするがグイッと引っ張られた。



「リンリン!危ない!」

「壱夜!何もしなくていいのかよ!殴るつもりだぞ」



いつの間にか、私の顎を軽く掴み自分のほうに顔を向かせられた。


背が高いパーカー男は少し屈んで近寄ってくる。


そして、自分のフードを軽く上に上げた。


それも周りには自分の顔が見えないように微妙な位置で止めているが分かる。


なぜそんなに素顔を見せたくないのか。


それはこの顔を見れば分かる。


容姿端麗という言葉がとても似合う。


ハーフ?


西洋的な特徴があるが、暑苦しい感じの彫の深さでもない。


本当にいい具合に綺麗にまとまっている。


きっと両親のいいところを受け継いだのだろう。


瞳の色はブルーで不自然な色じゃないし。


カラーコンタクトレンズではないことは間違いない。


ただ、その瞳はどことなく冷たい。




「目、閉じろよ」



はい?


閉じろ?


えっと。


なんで閉じるの?



そう考えているうちに、何かが私の唇に重なった。



あれ?



ヌルッとした何かが口の中に入ってくる。



何?


舌?

舌!!!



気付いた時にはもう遅かった。


がっしりと腕を掴まれ逃げられない状態に。


目の前には、ドアップのパーカー男の顔。


だから目を閉じろと言ったのか。



「ァ……ゥァフ…ン」



やめて。

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