今の居場所

第3話

着物を着ると笑顔がない日本人形だと言われる。


その言葉は侮辱の言葉とも言えるだろう。


実際、古い日本人形のように不気味だと言われてもいるけれど。


ストレートの長い黒髪、真っ黒な瞳、少し赤い唇。


特徴が日本人形と合うから余計にそう思えてしまうのだろう。


小さい時はまだマシだったような気もしたが、今は否定できないくらい似ていると自分でも思う。


日本人形は着物姿だ。


そして、私も着物を着る。


だから余計にピッタリな例えだ。


着物を着なければいいのだが、そういうわけにもいかない理由がある。


私の家は華道の家元で、どうしても着物の着付けが必要になるのだ。


表に出る時は正装姿でお迎えする。


そういう決まりだ。


家族は両親と兄が一人いる。


父はとても厳しい人。


母は日本女性の鏡のような人。


どちらも作法や礼儀に厳しい両親だ。


兄はそんな両親の教えを受けて立派な跡取り息子になった。


生花をしている兄はとても品格があって優雅だ。


また、両親のいいところだけを受け継いだのか容姿もよく更に美しく感じる。


兄は自分の容姿を理解しているからなのか、優雅なその仕草や色気で女を落とすことを楽しんでいる。


外は良くても中身がダメってことだ。


でも、華道の才能は抜群だ。


そう、才能はあるのだ。


その才能は華道の跡取りとして立派に誇れるほどに。


テレビにも出演しているくらいだもの。


そして、彼の妹の私。


私には才能がない。


みんなから落ちこぼれやら才能がない無能な奴と言われている。


確かに、兄のようにたくさんの賞などない。


自分でも才能がないと知っている。


無能だということも知っている。


落ちこぼれの存在なのだと知っている。


家は武家屋敷みたいで重要文化財でもあるらしい。


守らないといけない家だから掃除や修復も欠かせない。


守るためにも使用人を数人雇いお世話をしてくれているから家事は全く問題ない。


古い家だから修復が大変らしいがやりがいを感じている修復士は喜んでいるようだ。


専門職の人達にとってこの家は本当に素晴らしいとのこと。


構造材はもうこの世ではなかなか手に入らないものばかりらしい。


ここで育った私にはその素晴らしさが分かりにくい。


古くて貴重な建物なのは分かっているが。


貴重な建物に小さい頃から住んでいれば、その素晴らしさというものが感じなくなるものだ。


時々、建築専門家が観に来る時がある。


その時は、素晴らしいと言いながら写真を撮ったり修復士とこの屋敷について話をしていた。


そして、この屋敷は恵まれていると言っていた。


家族愛に溢れ素晴らしい家族と一緒に時を刻むことができると。


家族愛?


無能呼ばわりするような輩が家族愛に溢れているのか?


外面が大変よろしいようだ。

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