弟が好きな娘のお姉さんは俺を振ったクラスメイトです

MIL:RYU

第1話 失恋


「ごめんなさい」


 夏の暑さが残る9月初め、屋上で俺、色葉陽介いろはようすけは1学期から好きな女の子に告白をしたが、俺の恋はその一言で終わりを迎えた。




「見事に振られたな、賭けは俺の勝ちってことで」

「まーくんにまた負けた~」

「へへんだ!俺に勝つなんざ100万年早いわ!ってことで敗者は飲み物奢りな」

「はい、まーくんの好きなコーラでいいならここあるからこれでいい?」

「お~!さすがなっちゃん、サンキュー!」

「……」

「なんだよ陽介無言で睨んできて何かあったか?」

「いや~、人の失恋で得られたコーラはどんな味がするのか気になってな~」

「悪かった、ごめんごめん」


りっくんこと六道睦りくどうまこと。俺と同じ1年2組。中学からの親友で、サッカー部で一年生ながらエースストライカーをやっている。夏休み中に行われた強豪校との練習試合ではハットトリックを決め、圧勝したそうだ。校内で非常に人気のある学生である。いい奴ではあるけど、こういう人が落ち込んでいるときの絡みが非常にムカつく。それとやたらと運が良く、じゃんけん、くじ引き、賭け事など運が絡むことなら負けなしの男でもある。この賭けのせいで振られたのではと考えてしまうと余計ムカつく。


「なんで振られる方に賭けるかな~、親友なら応援しろよ」

「いやまあ、相手が白井となるとね」


白井しらい真央まお。俺たちと同じ1年2組。文武両道で、成績は常にトップ10をキープし、運動部に所属していないが、運動部顔負けの運動神経を持ち、容姿もきれいで、みんなに優しい。学校のマドンナ的存在だ。その為男子からの人気が高く、同級生や先輩からのアプローチや告白が多いが、彼女のお眼鏡にかなった人は居ない。そのため、睦は俺が降られる方に賭けたのだ。


「ほらそんなにいじけてないで明るいこと考えようぜ」

「そうだよ、あ!部活行ってきなよ、身体動かしてたら気が楽になるよ、今日小林先生出張でバレー部休みだから倫くんの事みてあげるから」


なっちゃんこと向竹夏音むたけなつね。これまた同じく1年2組。俺の隣の家に住む幼馴染だ。ちなみにこれで同じクラスになるのは10年目、くされえんみたいなものである。バレー部でCセッターとしてゲームメイクを行うチームの司令塔。中学三年生の時には部を全国大会へと導いた実績がある。


「そうだぜ、忘れて次の恋探せばいいじゃん」

「人生これからだよ!良い人はいつか見つかるよ」

「……」

「また無言になるなよ」

「だって二人に言われても説得力ないし……」


この二人に説得されても虚しいだけである。だって、ふたりは中学二年から付き合っている自他ともに認めるバカップルだからである。


「まあでもお気遣いどうも、俺部活行ってくるから夏音、倫のこと任せたぞ」

「OK!」




「お!陽介じゃん、珍しいな平日に練習参加するなんて、家の事はいいのか?」


練習着に着替えて、体育館に入ると声をかけてきたのは、2年3組の山根やまねしゅん先輩。俺が所属するバスケ部の部長だ。7月の大会で三年生が引退して、部を任され先輩から信頼され、後輩から尊敬される頼りがいのある人である。ポジションはPFパワーフォワード。ちなみに俺はSGシューティングガード


「はい、今日は夏音が代わってくれたので、明日の練習は参加しますけど、身体訛ったら嫌なので」

「はは、そうか」

「違うだろお前」

「うわぁ!」


背後からいきなり声をかけられて、驚いて尻もちをついてしまった。


「びっくりした、背後から突然現れないでくださいよ影山先輩!」


影山かげやまみつる先輩。2年4組。身長195㎝の大型Cセンター。巨人のような身長で目立つはずなのだが、この人は影が薄い。なので背後から気配も音もなくいきなり、いやいつからいたのか分からないが、近づいてきて声をかけられれば腰を抜かしてもおかしくはない。でも話しやすく、俺のことをいつも気にかけてくれるとても良い先輩である。


「充、あんまり後輩をビビらせるなよ」

「そんなつもりないのは瞬が良く分かってるだろ」

「試合だとあんなに目立つのに、それ以外だと存在感がないのは才能だな」

「褒めてないだろそれ」

「それより、さっき言ってた、違うってなんのことだ?」

「ああ、色葉が今日来た理由だよ、今日の昼間に屋上で告白して振られて気を紛らわすために来たんだよ、な?」

「……先輩何でそれ知ってるんですか?俺夏音と睦にしか言ってないですよ?」

「……だって屋上に居たから」

「何がですか?」

「俺が屋上で昼ごはん食べてるときにふたりが来たもんだから」

「気づかなかった!!!」


穴があったら入りたいとは正にこのことである。人前で告白やプロポーズをする人は居るが俺は、誰もいない空間で告白をした、したつもりであった。それがこの影が薄い先輩に見られていたなんて……。


「あ、そうだったんだドンマイ」

「慰めなんていらないので練習しましょう、って瞬先輩が持ってるのって月バスですか?気分転換に読んでいいですか?」

「構わないぜ、10分ぐらいしたら練習開始するつもりだからそれまでに返してくれよ」

「ありがとうございます」


先輩から月バスを受け取り、体育館のステージに移動して読むことにした。


「瞬、今月はどこが特集されてるんだ?」

「この前のIHインターハイがメインだな、そういえば見開き2ページ分使って女子選手の特集やってたな、見出しはたしか『消えた女王』だったけな」

「女王?消えた?なんだそりゃ」

「去年の中学バスケで無双していた中学生が居たみたいなんだが、どうもその子の今年の大会出場記録が無いみたいなんだ」

「色葉、知ってるか?」

「なんで俺に聞くんですか?でもその子の事は知ってますよ、雀山中で同じ地区だったのでよく大会で試合見る機会多かったので、同い年なのに男子顔負けの実力ありましたね、多分俺がやったらボロ負けしますね」

「雀山中!?おいそれって、去年、都大会で全国常連校である松ヶ丘中を下し全国出場を決め、そのまま全国優勝した学校じゃないか」

「それに陽介より強いって、お前、選抜大会の東京代表選手に選ばれてただろ」

「大会途中で辞退しちゃいましたけどね、女子は彼女の活躍あって3位でしたね」

「で、なんでそんなスーパー選手が大会の出場記録無いんだよ、強豪校に進学してることは間違いないだろ、そんなに上手いなら高校行っても通用するだろ、雑誌には何か書いてないのか?」

「プロになるために渡米して修行してるとか、病気で入院してるとか言った憶測が並べられてるだけだな、信憑性の高い情報はないし、そもそも彼女が進学した高校すら分かってないしな、中学校は個人情報だって公表してないみたいだしな」

「ふーん、その子の名前なんていうんだ?」

「名前は確か……」


トゥルルルル トゥルルルル


と、俺のスマホの着信音が鳴り、会話が途絶えた。画面を見るとどうやら弟の倫が通っている学校からのようだ。学校から電話がかかってくることなんて今までなかったので、なんかあったのか思い、急いで体育館を出て、電話に出た。


「もしもし」

『あ、もしもし、陽介君、倫君の担任をしている渡辺です』

「先生、いつも弟がお世話になっています、急なご連絡ですけど、倫に何かありましたか?」

『なにがあったと言うか、したと言うか単刀直入に言うと倫君が同じクラスの男子と喧嘩して怪我させちゃったのよ』

「はい、分かりました、今から学校に伺いますので詳しい内容や経緯は後程聞きます、弟がすみません、それでは失礼いたします」


と、電話を切り、急いで瞬先輩に電話の内容を説明して体育館を後にして、夏音にも電話を入れて、自転車に乗り、倫の元に向かった。

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