23番は仕事に戻る
第65話
現実逃避というのをこれほど強く思ったことはない。
何が楽しくて大量の洗濯物と戦わなきゃいけないのか。
ポケットから学生証やら注射器やら高級腕時計やら避妊具やらを取り除かないといけないのか。
ゴミ箱にたたきつけるように捨てたいけど22番と同じように立花に渡してやったよ。
庭のお掃除や窓ふき。
屋敷からは駿君の楽しい笑い声と明子さんの楽しい話し声。
なんだか凄く寂しい感じだ。
「23番。手が止まっているよ」
楠か。
何をしに来た?
何か頼みたいことあった?
「何か用事ですか?」
「お仕事終わったら暇?」
「プライベートなことなので」
「そんなこと言わないでよ。僕、午前中で終わりでさ。ちょっと付き合ってほしいところがあるの。アメリカから帰って来たばかりで疲れていると思うけどお願い」
「先約があるので」
「先約?」
ロイ君との約束だ。
ロイ君は部屋に閉じこもり自分の世界を楽しんでいるらしい。
ロイ君だけが2階の部屋のため私は行けないし、明子さんに聞くしかなかった。
私の部屋に来る様子もないし、伝言ゲームみたいに明子さんにお願いしている。
「誰と?同僚?」
「違います」
「駿?でも、そんな話は聞いてないけど」
「駿君とはしてませんから。現在、閉じこもり真っ最中のロイ君です」
「…………………ロイ様と?つーか、君付け」
「いろいろありまして。明子さんには話しを通してますから」
「ふ~ん。どこに行くの?僕も一緒に行ってもいいかな?行きたいなぁ」
「無理です」
「…………………」
「そろそろ終わりなので失礼します」
楠から呼び止められることもなく片付けて部屋に戻る。
制服を洗濯機の中に放り込み出掛ける準備をする。
久しぶりのスカートとブラウス。
髪を下してクルクルに巻く。
大人の女性って感じだね。
いや、大人の女性だけどね。
部屋から出で裏口の駐車場で待っているとロイ君が怠そうに歩いてくるのが分かった。
ゲームやってた?
疲れてそうだ。
ロイ君をずっと見ているとその後ろから嫌な奴も見えた。
楠はグレーのパーカーとジーンズ姿でこちら側に歩いて来る。
嫌な予感するんだよねぇ。
「23番。おはよう」
「ロイ君。今は午後だからこんにちはだね。ゲームやってたの?」
「ゲーム、レポート、ゲーム、レポート、レポート、ゲーム」
「レポートだけに集中しろよ。ゲームをちょいちょい挟むなよ」
「うるさい奴がいて無理。2階とか嫌だったのに。対戦相手もいないし」
「私は無理だからね。仕事に支障が出るのは駄目」
「分かってるから誘ってない。なんか、ストーカーがいるけど」
「私には何も見えないよ」
「ふ~ん。23番ってそんな格好も出来るんだね。ヒラヒラスカートだ。意外と似合ってる」
「よく言われる」
さて、早く移動して目当てのところに行かないとね。
「そこの二人!!デートはいけないと思うけど!コソコソ隠れて何してるの?いつの間にそんな仲になったの?」
何を勘違いしているのか。
楠は焦っているようだ。
「23番!ロイ様はお客様だからね!そこ分かってる?」
「ねぇ?楠さん。俺は別に篠原家との繋がりは薄いしさ。気にしないでよ。23番は仕事終わったんだよね?だったらいいよね?連れまわしても」
「ロイ様!!行きたいところがあるならこちらで手配しますから!だから、23番とは行かないで下さい」
「嫌だ。邪魔。変態野郎はどっか行ってよ」
「…………………」
楠は何も言わなくなった。
まぁ、変態野郎と言われちゃうとねぇ。
ロイ君、勇者様だね。
つーか、楠が変態ってこと知っているんだね。
何か見たの?それとも何か言われた?
「俺が23番と一緒にいるのが嫌なの?もしかして、楠さんって23番のこと好き?自分以外の男と出かけるのが許せないとか?彼氏でもないのに残念な性格だね。まぁ、あれをしちゃうくらいの変態さんだからそういうもんか。でも、俺は譲るつもりないから」
ロイ君!!
なんだか間違ってる部分あるけど凄いよ!
ズバッと言えるその性格は凄いと思う。
「いや、23番のことをそんな風に考えたことないので。従業員としか考えていないので。いや、従業員だからこのようなことをしないでいただきたい!!」
やっぱ、従業員の部分だよねぇ。
友達感覚はマズイよねぇ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます