第一章

23番の仕事

第2話

目を開ければ部屋の中は暗闇。

電気をつけなければ過ごせない暗さだ。

昨日は梯子を上って無理な体勢で照明の掃除をしていた所為か体のあちこちが痛い。

ベッドの上で大きく背伸びをして時計を見ると朝4時半。

起きる時間ですね。起きたくないけど起きる時間です。

顔洗って、ご飯食べて、化粧して、制服着て、あとは、ぬくもりのベッドで寝たい……………………。

いやいや、起きなければ。

ベッドのすぐ近くの窓を開けて新鮮な空気を室内に入れる。

3階だからって景色がいいわけじゃないのよねぇ。

目の前は大きな木だし。

蜘蛛の巣いっぱいだし。

ただ、この階には私しか住んでいないためとても静かで過ごしやすい。

頭がボーッとした状態で洗面所に向かいゴシゴシと顔を洗う。

ふーーーぅ、顔はスッキリだね。

ヨロヨロと体を動かしてキッチンに向かい買いだめしている食料を漁る。

えーと、食パンこっちだと思ったのに。

あれ?食べちゃったのかな。

作るのも怠いなぁ。

今日は食べなくていいかな。

今度の休みに買いに行かないとダメか。

トイレットペーパーと化粧水がなくなりそうだし。

そんなことをぼんやりと考えながらまた洗面所に戻る。

平凡な童顔の顔に薄化粧をして家政婦の制服に着替える。

セミロングの黒髪をアップにして掃除の邪魔にならないように整える。

今度は姿見鏡で全身の確認だ。

まずは自分の顔だ。

顔色、笑顔よし!!

制服の乱れはなし!

白いブラウスに黒いズボン。

そして白いエプロン。

今日もきっちりだぞ23番。

先輩家政婦もほめてくれるぞ!いや、それはないか。

そろそろ、朝の5時だ。

ポケットに小さな財布とハンカチとティッシュにメモやペンなどを入れて戸締りを確認してから部屋を出た。

今日のシフトの家政婦たちはもうみんな来ているだろうか。

少しだけ足を速めて廊下を歩く。

1階の家政婦専用休憩所にはすでに8人の家政婦が出勤していた。

8人中7人は自宅から通っている家政婦で半分以上が50代後半だ。

ほとんどの人が徒歩で出勤してくるから近場なんだと思う。


「みなさんおはようございます」


【おはようございます】


家政婦歴45年の2番が今日の朝礼役みたいだ。

背筋がビシッとしていてとても67歳には見えないよ。

そして!2番が作るカレーがとてもおいしい!

2番が今晩はカレーだから食べにきなさいって言うときはスキップしながら2番の部屋に行くもん。タッパーも忘れずにね。


「まずは、達美様邸のお屋敷ですが本日はお客様が10時にいらっしゃるそうです。お客様のお部屋と食器の準備をお願いします。次に真人様邸のお屋敷ですが本日はお休みですので掃除機は10時頃にお願い致します。では、みなさん!本日も頑張って働きましょう!」


ゾロゾロとみんな自分の担当の屋敷に向かう。

私は真人様の屋敷担当だから左側の屋敷に向かう。

広大な敷地に2棟の屋敷を建てるとかお金持ちの考えって分からん。

先輩家政婦もみんな言っていた。

【理解し難い】ってね。

上位の人以外は真人様に直接話すことが出来ないみたいで、ほとんどの家政婦は上位の家政婦にお願いする。

しかも、この屋敷で出会うことも少ないみたいだ。

住んでいるのは確かなんだけど。

私も会ったことがないし見たこともない。

なんだか周りを固めているような感じだ。

家政婦の名前は番号で呼ぶし。

家政婦みんなの本名知らないし。

だが、お給料はいいと思う。

それに惹かれてしまったんだよね。

基本給30万!!前職の基本給は15万……………………


「23番」


「はい!」


わぁ、2番だ!今日のご飯の件だったりして。

それならいいなぁ。


「あなたに今日の10時頃に行ってもらいたいお店があるの」


「はい。お店ですか?」

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