桜の時に思い出して
織本紗綾
〈序章〉恋の終わりに
“せめて卒業まで……あと一年でいいから背中を見つめていたかった。でも私は、こういうの下手くそだから、側にいたら隠せないから、離れます”
ノートにそれだけを書いてペンを置いた。
ただ好きだった、それだけなのにどうしてこうなったんだろう。いつものあの部屋で、あの広い背中をこっそり眺めていたかった、ただそれだけだったのに……。
忘れなきゃだめだよ。
心の中の自分に呟く、まるで小さな子に注意するみたいに。抑え込めば抑え込むほど、想いは溢れ出そうになる。
キーンコーンカーンコーン……。
授業を終えるチャイムが遠くから聞こえて我に返る。今、ノートに書いたのが心からの先生への気持ち。
「ちゃんと本当の気持ちを聞かせて」
今まで出逢ってきた人達の中で、初めて私と向き合ってくれた人だから、その気持ちに応えたい。でも……それは出来ない。
こんな事、言って困らせたくない。叶わないのなら、いっそこのまま知られずに終わらせたい。
近づいてくる約束の時間。
なんて言おう……どうしたらわかったって頷いてくれるだろう。
“こんなことになるなら出逢わなければよかった”
いつかどこかで聴いた歌の、歌詞のフレーズが脳裏に浮かぶ。冬の白い空を眺めながら私の心は、出逢った日にまた舞い戻っていた。
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