序章

第1話

昼休み、校庭で一輪車の練習をしていたら、前を走っていたエマちゃんがぐらり、とバランスを崩した。


あっ、と思ったときには彼女は砂の上に倒れていて、気が付いたみんなが慌てて大丈夫? 怪我してない? と駆け寄った。


「いった……!」


ゆっくりと体を起こした彼女は、よく見ると右の肘を擦りむいている。

柔らかそうな白い肌に血がぷつぷつと滲んで、見るからに痛そうだ。


「保健室に行こう」


誰かがそう言って、エマちゃんは今にも泣き出しそうな顔でうん、と弱々しく頷いた。


彼女はみんなの手を借りて立ち上がり、保健室に向かおうとしたのを私は呼び止めた。


「待って!」


「……なに?」


怪訝そうにエマちゃんは振り返る。

私はエマちゃんに駆け寄ると、傷を見せて、と腕をつかんだ。


「治してあげる」


私は自分の手のひらを傷の上にかざすと、


「痛いの痛いの、とんでけ」


おまじないのように唱えて、ゆっくり手のひらをスライドさせる。


みんなが訝しげに見守るなか、私はそうっと手のひらを外した。

すると、そこにあったはずの擦り傷は跡形もなく消えている。


「これでもう痛くないよ!」


私はエマちゃんに笑いかけた。

良かった、「ギフト」による治療は成功だ。

ギフトを使った治療は、痛みもないし跡も残らない。

きっと喜んでくれる、そう思っていたのに。


はるちゃん、気持ち悪い」


青ざめたエマちゃんは掴まれていた腕をひったくり、逃げるみたいに昇降口へ駆けていった。

見ていた周りのみんなも、キモい、怖い、化け物、などと口々に罵って彼女の後を走って追いかけた。

校庭には私一人が取り残される。

ぴゅう、と小さなつむじ風が一筋、私の前を通り過ぎていった。

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