第467話
クリスマスソングを流しながら料理をしているのはお父さんだ。
いい歳をしたおじさんがフリフリのエプロンをして鼻歌をしながら、クリスマス料理を作っている光景はちょっと笑える。
なんでフリフリのエプロンなんだ?
いつものシンプルなエプロンはどこにやったんだ?
お母さんは録画していた恋愛ドラマを見ている。
手伝う様子は一切ない。
それぞれやりたいことをやっている。
私は、小休憩中だ。
早起きして課題をやり、集中が切れてきたタイミングで甘いものを食べる。
それを繰り返すことで頑張れる。
甘いものはお父さんが買ってきてくれたコンビニの期間限定スイーツだ。
テレビで紹介されたらしく即日売り切れ店舗が多いらしい。
「凛、ケーキ食べるんだから程々にしておきなよ。ここ数日、ずっと甘いもの食べてるでしょ?」
「脳みそがカラカラだから糖分を体内に入れてリラックスしてるの」
「飴玉でもいいと思うけど」
「………………」
それはなんか嫌だ。
ガッツリ糖分を取り入れたい。
「よし!やるか」
立ち上がり自分の部屋に戻ってレポートを仕上げる。
夕食の1時間前くらいにお父さんに呼ばれてキッチンに行くと、5段重ねのクリスマスケーキがあった。
まだ飾り付けは途中の状態らしい。
「はい、飾り付けするよ。土台は作ってたからさ。クリームはこれ」
乗せるフルーツは苺だけじゃない。
バナナもあればパイナップルもある。
フルーツたっぷりのケーキになるらしい。
「5段も重ねたんだ?ウェディングケーキみたい」
「作ったことあるけど、あれ意外とシンプルだよ。今回のケーキは中身もカラフル。スポンジを色付きにしたんだ」
スポンジだけじゃなく生クリームも色付きだよね?
グリーンとピンクにブルー、それからホワイト。
カラフルなケーキだなぁ。
「これ、数日で食べるんだよね?」
「凛はちょこちょこ甘いものを食べてるから大丈夫でしょ?あっという間になくなるよ。はい、飾り付けしよう」
全体的に苺はバランスよく置きたいよね。
バナナは2段目?
パイナップルは4段目かな。
靴下の形をしたチョコやトナカイのチョコもある。
これは型だけ買って冷やして作ったのか。
クリームをやればもっと華やかになるはずだから………………。
「このくらいでいいと思う。これ以上やると何がなんだか分からなくなりそう」
「うん、クリスマスケーキっぽいねぇ」
お店で売っているようなケーキではないけど、家庭で作ったケーキ感はある。
うん、飾り付けをしただけなのに達成感はあるな。
「あら、可愛くできたじゃん。これって、クリスマスツリーみたいね。一番上に星が乗ってるし。ちょこちょこプロの技があるけど」
お母さんが言っているのかお父さんが作った飾りだろうな。
市販で売られているような飾りではないから。
「よし、んじゃ始めようかな。ケーキも完成したし。料理も全部完成だ」
テーブルにはお父さんが作った料理が並んでいる。
気合いが入った料理だなぁ。
チキンが丸々一匹あるよ。
ワインもちゃっかり用意してるし。
クリームシチューのにんじんは星の形をしており可愛らしい。
子供が喜びそうだなぁ。
「たくさん作ったね。明日も同じメニューになりそう」
「量は調節したつもり。品数は多いけど」
それは調節したって言えるのか?
でも、どれも美味しそうだからいいか………………
スマホを取り出したテーブルに並んでいる料理を撮る。
そして、その写真をみんなに送ってあげた。
私の今晩の夕食は豪華ですって。
これにすぐ返信がきたのは真理亜だ。
テイクアウトできますか?ってきた。
できません。
大塚さんからも返信がきた。
写真付きだ。
「あら、これは………………海が遊ばれている」
「ん?海が何?」
「大塚さんもクリスマスをやっているんだけど。海がサンタになってる。着せられたらしい」
似合わないな。
「楽しそうで何よりだね。でも、海がサンタって怖いよね。血塗れサンタさんみたいで」
あっ、お父さんもそう思った?
スマホをテーブルの上に置いて椅子に座る。
お父さんは自分のグラスとお母さんのグラスにワインを注ぐ。
私はオレンジジュースの缶を開ける。
「クリスマス!って感じがいいね。誠也に全部任せて正解だったわ。私じゃこんなに作れないもん」
「冷蔵庫の中がギチギチになるだけかもね」
「ひどいこと言ってる」
「はい、乾杯!」
難しいことは一切ない。
クリスマスという雰囲気を味わうだけだ。
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