第400話
3人になった病室はなんだか静かだ。
うるさく騒ぐ人がいないからだろう。
それに、真理亜は喋るより食べるのに集中しているし。
ここに亜紀がいたら賑やかになっていたかもしれない。
「諦めが悪い男は嫌われる。痛い目にあったのに。同じやり方じゃなくても、風間がやる全ての行為は拒否られると思うけど。まず、上から目線がイラつく」
「お前に対しては上から目線で言う。当たり前だろ。区別はきっちりだ。同じにしてたまるか。純粋な表じゃないくせに」
この男は感化されてしまったのかしらねぇ。
私と柚月に。
なんだか、悪いことをしてしまった。
どう考えても真理亜は私と違うし。
「あなたのお母さんが元気にしているの?連絡は?」
「なんでそんなことを聞く」
「もっと身近にいるから。ダメな例が。今までの暮らしをガラッと変わるのは難しいでしょ?自由に外出できるなんてこと無理でしょう?どこまで会話が許せているのかなって」
「よく知りもしないでそんなこと」
「間違ってはいないはず。裏を全く知らないド素人なら、あなたが真理亜を狙っていても気にしていなかった。喜んでいたかもしれない。でも、少しでも裏のあなたを知っているから疑う。裏は疑うところでしょう?騙し合いが基本だし。あなたが話すものは嘘が多くて」
全てを疑うのが基本。
裏にどっぷり浸かっている人なら尚更だ。
「お前に本気だと言っても半分嘘に聞こえるか?それとも下か?言葉じゃいくらでも嘘が言えるからな。行動で示せって言うだろう?だがな、お前より東賀誠也が上だな。行動で示せても意味がない、だと」
お父さんが?
「お前の父親は表側の女と結婚した。そして、家にいないで日中は働いているだろう。その感覚が分からない。凛、お前は何を言われたか分かるか?お前なら分かるはずだろ」
家にいないで日中は働いている、か。
会社に行ってたくさんの人と会って、残業があると夜遅くに帰ってきたり会社に缶詰状態になったり。
休みの日はアレコレ見たいからとショッピングモールに私と2人で行って自由に買い物したり、友達とお茶をしに行くと言って昼に出て行って夜に帰ってきたりと自由な生活状況だ。
「真理亜が1人で買い物に行くって言って、あなたはそれを了承する?私のお父さんはお母さんの邪魔はしない。買いすぎとか注意するけど。友達とお茶を飲みに行っても止めたりしない。仕事だって辞めろなんて言わない。反対に家事の協力をする。遅くに帰って来ても問いただすようなこともしない。自分が家に帰ってきた時、誰も家にいないってことも何度だってある。置き手紙で友達と居酒屋に行ってきますってあっても、追いかけたりしない。あなた、私が言ったもの全部同じように出来る?無理でしょ?」
風間の裏とお父さんの裏は別物だ。
どちらが表に適応できるのか分かり切っている。
そして、一番は考え方だろう。
真理亜は好きな食べ物をたくさん食べるのが好きだ。
家で食べるというより外で食べるのが多いだろう。
1人で出歩いてお店を回る。
それを風間は許せるか?
「完全な自由ではないだろ」
「あなたが考える自由とお父さんたちが考える自由は別物。最初から分かっていないなら無理なんじゃない?どんな行動を示すつもりなのか知らないけど。きっと碌でも無いことでしょうね。それっぽく表で経験しても、裏で生きる考えは変わらない。似せただけじゃダメなの。根本的なことを理解していないと」
何が良くて何がダメなのか。
お父さんがどうやってお母さんに理解させたのか。
お母さんがどうやってお父さんに理解させたのか。
どうやって表側で生活させるのか。
危険が及んだ時の対応をどうするのか。
一方的な考えを押し付けるわけにはいかない。
そして、風間の考え方が当たり前とするわけにはいかない。
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