スパンコール2

第2話

「バンドマンは止めときな」


灯里ちゃんは学食の味噌ラーメンを啜りながらそう言った。


「ろくでもない奴ばっかだよ。

販促のために何人と寝たとか、いくら貢がせたとか、自慢するやつもいるんだ。

3Bって言うじゃん」


昼どきの学食は賑わっている。

みんな苦学生だから少しでも食費を安く抑えたくて、しかも美味しいとくれば盛況なのも頷ける。


「常磐さんもそうなの?」


私は和定食の唐揚げを頬張りながら尋ねた。

パリ、と揚げたてのいい音が鳴る。


「分かんないけど……でも気を付けるに越したことないし」


「常磐さんになら騙されてもいいかなあ」


「バカ」


私が浮かれていると、灯里ちゃんは思いっきり渋い顔をして罵った。しかめっ面のまま、ふうふうと息を吹いて冷ました麺を啜る。


「ていうか、初のワンマンライブを開催したうちのバンドを差し置いて、前座に惚れるって失礼だよ」


「ごめんって。良かったよ、『TOMOSHIBI』の演奏。盛り上がりが過去最高」


思ったままを述べると、初めて灯里ちゃんはふふん、と鼻を鳴らした。


「当然」


「すみませーん」


後ろから声をかけられて振り向くと、知らない女の子2人組が頬を染めて灯里ちゃんに駆け寄った。


「『TOMOSHIBI』の灯里さんですよね?この前のライブ、すごく良かったです!」


「めっちゃ盛り上がりました!歌詞も曲もすごく素敵で」


「聴いてくれたんだ。ありがとう」


灯里ちゃんは極上の営業スマイルを2人に向けた。

2人はうっと声を詰まらせて、瞳にハートマークを浮かべている。

全く、たらしなのはどっちなんだか。


「それで……あの、レコード会社から声がかかったって本当ですか」


「情報早いね。近々発表するからもう少し待ってて」


今後もよろしく、と手を差し出すと、2人はきゃー!と歓声を上げて握手した。

それぞれ頑張ってください、次のライブも行きます、と言い残して手を振りながら去っていく。


「人気者だね、TOMOSHIBIのボーカルは」


「頑張ったからね」


灯里ちゃんが努力家なのはずっと前から知っている。

幼馴染の灯里ちゃんは、小学校の運動会だって、中学校のスピーチ大会だって、高校の模試だって、絶対に手を抜かない頑張り屋なのだ。


しかも整った顔立ちで、色白、細身、高身長。

黒髪に襟足を赤く染めたウルフカットがよく似合っている。


「ごちそうさま。よりはゆっくり食べていいから」


食べるのが遅い私はいつだって灯里ちゃんを待たせてしまう。

だけど灯里ちゃんはそんな私を責めることなく、適当にスマホをいじりながら待っていてくれる。


「そうだ、依」


「何?」


残り少ない味噌汁を啜っていると、灯里ちゃんは何でもないようにさらりと告げた。


「この前の衣装、評判良かった。次も頼んでいい?」


私は目を見開いた。

初めて作ったTOMOSHIBIの衣装。

赤をメインに使ったのは派手すぎるかと不安だったけど、ステージ映えすると思ったのは私だけじゃなかったみたいだ。


「合点承知!」


「江戸時代かよ」


灯里ちゃんは嬉しそうに突っ込んだ。

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