スパンコール

スパンコール1

第1話

光だ、と思った。

毎日家と大学の往復で、進路さえも入学前から決まっている。

眠くなる講義、凝り固まった人間関係、バイトはひたすらルーチンで、そんな生活に光明がさした気分だった。

目の前では灯里（あかり）ちゃんのギターが仲間の演奏に合わせて大音量で鳴っている。

輝く照明、響く歌声。

アップテンポのリズムに乗って、みんながうさぎみたいにぴょんぴょん跳ねる。

振動が床を伝って心臓まで届いた。

私はライブハウスの一番奥で、ぬるくなったウーロン茶を片手にぼうっとそれを眺めていた。

ここは全てが非日常で、まるで夢のなかにいるみたいだ。

夢なら醒めないでほしいと思う。

夢は醒めたら忘れてしまう。

私はずっと今日のことを覚えていたい。

とんとん、と肩を叩かれて横を向いた。

「つまんない？」

見下ろしていたのは、私に光を見せたロックバンド「昼の月」のボーカル、常磐さんだった。