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 貴子と秀美のリング上での死闘から半年近くが過ぎた。この試合の翌日、貴子は左腕の異常を訴え、病院で診察を受けたら、左腕が骨折していたことが判明した。11月に予定されていた次の試合は年明けに延期され、ケガの治療に専念することとなった。年末には、貴子の友達の有里が大阪から婚約者を連れて帰郷した。有里の自宅の酒屋の前で、貴子は来年の6月に有里が結婚する話を聞くこととなった。一方、貴子の所属する原島ジムの方では、有美子の快進撃が続き、11月の初めに行われた6回戦の試合で1ラウンドKO勝利を決め、年明けの2月にランキング入りを懸けてフライ級の日本ランキング7位の福浦アカリとの49㎏契約8回戦の試合が、札幌でそれもセミファイナルで試合をすることが決まった。福浦アカリといえば、以前ストーリーの前半で紹介した貴子より1つ年下の選手で、貴子と同じように高校生でプロデビューして現在プロ4年目の選手だ。現在は、看護婦を目指して東京都内の高等看護学校に通いながらプロボクサーをしているため、高校卒業と同時にキサヌキジムに移籍した。彼女にとって、札幌でボクシングを続けるよりも東京で実力を磨いた方が、より一層強くなるのではないのかと思っての移籍だったし、いい意味で刺激となったことから、ここ最近は3試合連続KO勝利で勢いに乗り始め、昨年の秋にランキング入りを果たした。ちなみに、デビュー当時と比べて体が成長したことから、ミニフライ級では減量苦となり、現在はフライ級の日本タイトルを目指して練習に励んでいた。貴子は、今後もしかしたらグローブを合わせることがあるかもしれないライバルのアカリの成長ぶりにも関心があったし、同じジムの有美子の快進撃が続き、先々チャンピオンに挑戦する日が来るのではないのかという期待もあったりと、この試合のカードは非常に複雑な心境だった。年明け、貴子はケガが完治し、リハビリも終えてようやく練習に復帰した。2月に行われる予定の有美子の試合にはセコンドにも付くこととなった。試合日当日のセミファイナルの試合の順番がやって来て、有美子が青コーナーから、対戦相手の福浦アカリが赤コーナーからリングに入場した。試合開始のゴングが鳴り、試合は序盤から有美子が試合の主導権を握った。第3ラウンド、アカリの左ボディ攻撃に対して有美子は右ストレートで対応、パンチがアカリの顔面にクリーンヒットしてダウンを奪った。ここの場面ではアカリは立ち上がった。次の第4ラウンド、有美子はアカリを度々ロープに追い詰めた。このラウンドの終盤には一瞬アカリの動きが止まる場面もあった。第4ラウンドが終了したインターバルの場面だった。貴子が有美子の口に水を含ませている間のことだった。

「ここで勝負を決めるぞ。」

との原島会長からの指示があって、

「はい。」

と有美子は答えた。次の第5ラウンドが開始して45秒が経とうとしていた頃、アカリのガードをかわして、有美子の右フックがアカリの顔面に直撃した。有美子はアカリからダウンを奪った。立ち上がろうとするアカリだったが、マットの上に膝をついた状態で立ち上がることはできなかった。試合は有美子が5ラウンドKOでアカリに勝利した。試合終了後、アカリが有美子のところに近づいた。

「ウワサ通りの強さだったよ。もっと、ボクシングの腕を磨いて、次はあなたを倒します。」

と言って、お互いの健闘をたたえ合った後、早足でリングをあとにした。

 それから翌月の3月に貴子は専門学校を卒業し、この4月から家業の『美容室NOKKO』で看板娘として店を手伝うこととなった。そんな中、貴子が以前グローブを合わせたライバルの有美が店の客としてやって来た。

「カットの方、貴子さんにお願いしたいのだけど。」

と、有美は言った。貴子が有美のところに近づくと、

「武田有美さんでしょ。お久しぶりです。」

と、あいさつをした。

「そうよ。久しぶり。たかちゃん、私の髪、ショートにしてくれる。」

と有美は言った。

「かしこまりました。」

と貴子は返事をした。

「実は私、3日後に藤田紗理奈と防衛戦を戦うことになっているんだ。応援に来てくれる。」

と誘われた。カットが終わって、有美は貴子に自分が出場する試合のチケットを手渡した。

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