第12話

12



「迷惑…ですよね」

俯く俺。

握られた手がぎゅっと強く包まれ、座っていた相葉さんが立ち上がった。


ゆっくり、冷たい手が俺を包み込んで…すっぽり抱き寄せられる。



『君が…俺を好きだなんて…本当かな?』

肩に置かれた手が俺を少し引き離し、顔を覗き込んでくる。

真っ赤になった俺は頷き、そして俯いた。

そのまま身体が引き寄せられて、相葉さんの胸に俯いたままの頭が当たる。

そこでようやく相葉さんを見上げた。


何秒くらいだったかな…

お互いにジッと見つめ合い…

顔が傾くと、ソッと柔らかく唇が触れた。


優しく触れるだけのキス。

冷たい…


そんな事よりも…俺は嬉しくて、彼の胸に顔を埋めた。

頭を撫でながら彼は俺を優しく抱きしめてくれた。


『和くん…俺も…君の事が…好きだよ。』


相葉さんの優しい声が耳を掠めた。



身体が重くて、相葉さんは冷たいのに、俺はひどく汗をかいていた。


どんなに運動したって


汗なんてかかないはずなのに。

暑いのか…苦しいのか…

相葉さんの腕の中でいつしか…


目の前が真っ暗になっていた。





目を覚ましたら…知らない家の布団に居た。


昔ながらの和室。

くすんだ障子。

電球に質素な傘がついてるだけの照明。

低いテーブルには散乱した書物と、万年筆…


タイムスリップしたみたいに…古い家の様子に自分の服が浴衣に変わっている事に気付いた。

薄いベージュの浴衣は大分と着古されているようだ。


障子にユラっと影が揺れてスーッと開いた。


「相葉さんっ!俺っ!」

『あぁ良かった、目が覚めたんだね。…陽に負けたかな…倒れてしまったから俺の家に運んだんだよ』


あぁ…どうりであの時…

凄い汗は体調不良だったのか…


「ごめんなさい、迷惑かけて」

俺は布団から出ようとした。

相葉さんが慌てて持っていたコップの乗ったお盆を畳みに置くと俺を止めた。

『待ちなさい!…そんな急に起きると身体に良くない』

相葉さんに肩を掴まれゆっくり布団を掛けられる。

俺はされるがままに布団に逆戻りした。

相葉さんが胸の辺りをポンポンと撫でながら目を細めて俺を見つめる。

ゲコゲコとカエルの騒がしい合唱が響き、相葉さんの後ろの障子に小さな黄色い光がいくつか見えた。

「相葉さん…アレ…何?」

後ろを指差されて彼はゆっくり振り返った。

障子をゆっくり開いて見せる。

『蛍だね…まだ居たんだ。もう…こんなに…暑いのに…』



そう呟く…相葉さんに…


俺は後ろからそっと



………抱きついた。

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