第100話
静かすぎるこの部屋の空気に、私は押し潰されてしまいそうだった。
「……お前…たまってんのか…?」
ニシヤマくんのその言葉に、私は俯いたままブンブンと首を振った。
「…私、キスしたの初めてです…」
「……」
ニシヤマくんのキスと私のキスが違っていたのは、おそらくその経験値の差だろう。
「…この家だって親しか入ったことはありません…あの歯ブラシとかは、以前母と旅行に行った時に泊まったホテルのアメニティです」
「……」
私はニシヤマくんの言う通りたしかに地味だけど、絶対に尻は軽くない。
初めてのキスなんて、特別大事にとっておいたわけじゃないし早く経験して皆んなと同じスタートラインに並びたいと思ったことだって何度もあったけれど、でもその相手を誰でも良いなんて思ったことは一度もない。
「…私だって相手くらいは選びます」
私は透明人間じゃない。
皆んなと同じ、れっきとした人だ。
人並みに誰かを好きにもなるし、ドキドキもするし、心ない言葉や態度に傷付くことだってある。
「……こんな私にだって、選ぶ権利くらいはあるはずっ………です」
なかったらどうしようと思うと、私の言葉は尻すぼみになって情けなく消えた。
笑いたいなら笑えばいい。
でも、この九年私がずっとニシヤマくんを想い続けていたことは事実だから。
十五歳の私は、ニシヤマくんを選んだ。
今更この想いをなかったことになんてできないし、それならもう私に男性経験がないことなんて仕方のないことだ。
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