第9話

「お前がどんなにいい子ちゃんにしてたって結局与えられんのはこんなとこだろ?」


「……」


「ガキが世話になんのに申し訳なさなんか感じんなよ。おじさんが死んだ時お前小五とかだろ?どうしたって誰かに頼るしかないに決まってんじゃねぇか」


「……」



ソウちゃんが私に言い聞かすように話すそれらは間違いなく私のことを思ってくれてのものであり、そこに間違いなんて一つも見つからなかった。



「そうだね…でも、もうそれも全部いいんだよ」


「いいって、」


「だって私は自由になれたんだもん。現実的に考えると私はまだ金銭的に叔父さんの助けが必要だけど、」


私が言った“叔父さんの助け”が気に入らなかったらしいソウちゃんは割って入るように口を開いて「いやだから、」と言ったけれど、私はそれに被せるように「でも、」と言葉を続けた。



「もう毎日顔を合わせなくて済むんだって思えばすんごい気持ちが軽いよっ!」


「っ、…」


「あとソウちゃん、一つ勘違いしてる。私叔父さんに感謝なんかしてないよ。だってお父さんが死んでラッキーって思ってるのがダダ漏れだもん。そんな人に感謝なんかするわけないでしょ」


「……」


「ていうかソウちゃんさ、黙って聞いてればちょいちょい失礼だよ?」


「え…?」


「ここは私の城だから。遠慮なく水がどうとかこんなとことか言っちゃってさ。文句があるな」


「ねぇよ」


私の言葉を遮ってそう言ったソウちゃんは、バツが悪そうに目線を落とした。



「……ごめん、コト」



それが何に対しての“ごめん”なのかはよく分からなかった。


叔父さんを悪く言ったことだとするならば私は叔父さんを庇う気なんてさらさらないから別に構わないし、


この家のことを貶していたのだって、家のことであって私じゃないしそこに悪気がないことなんてちゃんと分かっているから謝ってほしいなんてちっとも思ってない。



現にここは、どこからどう見たって紛れもなくボロアパートだ。



「ねぇ見て、ソウちゃん」


私のその言葉に、ソウちゃんはすぐにこちらへ目線を上げた。



「このマグカップ超可愛い。今時百均も侮れないよね」


ソウちゃんはそのまま流れるように私の持つマグカップの絵柄に目をやると、さっき畳の上に置いた自分のマグカップにも目をやりすぐにまたそれを手に取っていた。



元気を出してほしいと思って話を変えた私だったけれど、ソウちゃんの雰囲気はなかなか軽くはならなかった。



優しいなぁ、ソウちゃんは…







「…なぁ、コト、」


「うん?」


「……」


「…え、なに?」


「…いや……ヒロくんがさ…今朝俺んとこ来てお前の新しい家の場所知らないかって聞いてきたんだけど」





突然出てきたその名前に、私は一瞬だけ心臓が浮くような不快な感覚がした。

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