「四季くんは肯定も否定もしないんだね」


「君は頭が良いから、これ以上話をしても俺は口で勝てないと思う」


「勝ち負けなの?」


「ほら。こうなるだろ…?だから彩ちゃんの質問に、君が思う通りの答えが出せるか自信がない」



四季くんはわたしの顔から手を降ろすと、わたしの手を再び握り返した。



「四季くん…」


「なに?」


その優しい口調に、わたしの中でくすぶっていた思いがせきを切ったように溢れ出す。



「思う通りの答えじゃなくて良いから、わたしは四季くんの事が知りたい。ずっと…四季くんに会いたかった。四季くんは何してた? 四季くんはわたしに会いたかった? わたしは四季くんと…」


「会いたかったよ」



話しを遮られ、抱き締められた。



「四季くん全然連絡くれなかったのに…?」


「…そっか。ごめん…連絡すれば良かったね」


「どうして連絡くれなかったの…?」


「うん…この歳になると、タイミング逃したらどう切り出して良いか分からなくて…仕事も溜まってたし、暫く休日もなかったから…いざって時に、彩ちゃんに何て連絡しようか考えてた」


「…あたしから連絡しても良かったの?」


「勿論。いつでもいいよ」


「嬉しい…四季くんありがとう」



彼をギュッと抱き締め直したら、腰の細さに比べて背中は厚みがあるんだなと思った。



「あとは何が知りたい?」



その言葉に顔を上げると、髪が短くなったせいか、額の傷がやけに生々しい。そっと指でなぞり、頬を滑って耳に触れた。



「四季くん、ピアスつけてるの?」



耳に触れた時に見えたそれらしき無数の穴。



「あぁ、昔ね…今はしてないよ」


「凄いね…」



ベッドから降りて立ち上がり、腰掛けている彼の目線に合わせるように耳元へ顔を近づけた。



「痛く無いの…?」



ピアスを通していた穴を指の腹で触りながら尋ねる。



「痛く無いよ」



少し笑って答えた彼と、視線が重なった。



「四季くんはわたしの知らない事をいっぱい知ってるんだろうな」


「そうかな?」


「でも四季くんはわたしがされて嫌なことを知らない」


「え?」



彼の膝下に手を付き、床に膝を立てて向き合った。



「さっき言ってくれたでしょ?わたしが嫌だと思う事はしないよって」


「あぁ…」


「四季くんはわたしが何を嫌だと感じたんだろ?」


「え?」


「えっちな事するのかって聞いたから…?」


「彩ちゃん」


「その質問に対する回答は間違ってる」


「彩ちゃん」


「四季くん、わたしは経験のない子供かもしれないけど。無知な訳じゃない…何をするのか知ってる。だけどどうしたら良いかわからないの…だからちゃんと教えて欲しい…はぐらかさないで」


「わかった」



彼は頷いて、私を立ち上がらせると、再び隣へ座らせた。



「さっきも言ったけど、彩ちゃんを大人とか子供だとか区別して接した事はない。ただ、君は間違いなく未成年で、学生なんだ。社会から守られるべき子供に違いはない。わかるよね?」


「はい…」


「彩ちゃんが言ってたとおり、いつかはそうゆう事をするかもしれないけど、今じゃないと思ってる。だから、君がもう少し大人になったらこの続きをしよう…いや、しようじゃなくて…」


「四季くん…」


「え…?」



彼の顔を両手で包み、唇を寄せた。初めて自分からしたキスは、上手いのか下手なのか分からない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る