第4話
「やっとここまで来た…」
私の住んでいた都内の駅から電車を三回乗り換え、そこからバスで揺られること三十分。
やっとその街に到着した私は、フラフラになりながらバスから降りるとすぐに持っていた日傘を真上に差した。
久しぶりに歩く地面はまだなんとなく揺れているような感覚がして、少し気持ち悪かった。
こんなことなら「車で送る」と言ってくれた叔父さんの厚意に素直に甘えておけばよかった。
お父さんの弟であるあの叔父さんもその奥さんも本当に良い人で、この数日は快く私を家へと招いてくれた。
じゃあなぜ叔父さんは私を引き取ろうとはしなかったのか。
少し気になりはしたけれど、あまりにも良くしてくれた二人を責めるようなことは言いたくなくてその疑問はそっと胸の奥にしまうことにした。
バス停からの道のりは、叔父さんが親切に手書きの地図を書いてくれた。
「少しでも分からなくなったらすぐに電話するんだよ」
そんなことを叔父さんは心配そうな顔で言ってくれたけれど、右手に何があって左手には何があるのかと細かく書いてくれているおかげで私は目的地となるその家まで迷わずたどり着くことができた。
「ここだ…」
表札の名前が私と同じ苗字であることになぜか今更ながらにドキッとした。
こんな遠いところに血の繋がったおばあちゃんがいたなんて知らなかった…
その家は歴史のありそうな木造の平屋だった。
これはかなり古い。
隣には新しそうな二階建ての大きな家があったから余計にそう感じたのかもしれない。
一度大きく深呼吸をしてからインターホンを押せば、内側からすぐにタッ、タッ、という少し急ぐような足音と床が軋むような小さな音が聞こえて私はまた更にドキッとした。
あの叔父さんの様子から察するにおばあちゃんはきっと意地悪な人ではないだろうけれど、あの穏やかなお父さんが全く寄り付かなかったことを思えば少し引っかかりもする。
いくら離れた場所にいるとはいえ、孫である私が顔も知らないなんて絶対におかしい。
私が知らないんだから、きっと向こうだって私の顔なんて知らないに決まっている。
お父さんもお母さんもおばあちゃんの話なんて普段全くしていなかったんだから、もしかすると向こうは孫がいたことだってずっと知らなかったかもしれない。
正直私だって自分のおばあちゃんがまだ生きてるだなんて思いもしなかったし…
それに息子夫婦の通夜にも葬儀にも顔を出さないなんてあんまりだ。
仲が悪かったのかな。
おばあちゃんはお父さんとお母さんのことが嫌いだったのかな。
もしそうなら私のことだってきっと———…
———…ガラガラガラッ…!
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