第53話

「それが何?」


「年上、だし」


「それはもうどうしようもなくない?それを言うなら俺が追いつくまでヒナノちょっと年取るの待っててよ」


「そんなことできないよっ…!」


「うん、知ってる。じゃあもう諦めなよ。とりあえず俺のこと好きならひたすら“好き、好き”言っててもらっていい?」



俺が依然教壇に肘をついて身を乗り出しているから、俺達の距離は今までにないくらいに近かった。


俺にとっては、彼女が今気にしていることなんて心底どうでもよかった。


とりあえずキスくらいさせろよ。




「…私、おばさんだよ?」


「え?二十四っておばさんなの?」


「十八からしたらおばさんだよ」


「ヒナノ知ってた?日本人の平均寿命って女の人の方が長いんだよ。そう考えると、女が年上の方が案外同じくらいに死ねていいかも」


笑いながらそう言った俺に、彼女は「軽いなぁ」とやっぱり少し困ったような顔をしていた。



俺は、そんな彼女のみぞおちあたりの服を摘んで彼女の体をぐっと手前に引き寄せた。



「っ、」


「好きだよ、ヒナノ」



今の俺らに、それ以上に必要な言葉なんてあるんだろうか。



「俺を年下だからって侮っちゃだめだよ」


「え?」


「これまでの男なんか一瞬で忘れさせてやるよ」



躊躇いなくそんなことを言った俺に、彼女は一瞬で顔を真っ赤にしていた。


「っつうことで今日ヒナノの家行ってもいい?…いろいろ、確認がてら」


「うん…いいよ…ハルキ」



小さく笑った彼女は、そう言って少し照れながら初めて俺を下の名前で呼び捨てにした。













— 04.『 ヒナドリ 』【完】 —

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