第38話

「こっちも見たい?」




彼女は首元のシャツの襟を両手で摘み広げながら俺にそう言った。













———…




俺が彼女のことを知ったのは高二に進級してすぐの頃だった。


一年の時は関わりなんてなかったから存在すら知らなかった。



…とはいえ、俺は初めは彼女のことがあまり好きではなかった。


いつも愛想笑いを浮かべてみんなの機嫌を伺うようなその感じはたまらなくイライラするし、何を言われても怒りもせずに笑って受け流すその感じにも妙にイラついた。



俺が話しかけてもそれは同じで、彼女のことを大して知りもしない俺が馴れ馴れしく話しかけたって彼女は笑顔でかわすだけだった。



“あぁ、もし同じクラスにいても俺は仲良くはならないタイプだな”と俺は漠然とそんなことを思った。


それなのに彼女はみんなから割と好かれていた。


その当たり障りがなく何でも笑って許してくれそうな感じが、他と違って扱いやすかったんだと思う。


だからって特別パシられているようなところは見たことがないけれど、完全にナメられているのは男の俺にもちゃんと分かった。



だから余計好きじゃなかった。



嫌なら嫌って言えばいいし、バカにするなとか偉そうにするなとか、言える口があるんだから気にせず言えばいいと思う。




言いたいことを簡単に口にできない彼女は、一体どれだけ狭い世界で生きているんだろう。


日々どれだけの我慢を募らせているんだろう。



そんな気の弱い彼女のふとした時の疲れた顔を見ていたら、俺はなぜか放っておけなくなった。


誰かが手を差し伸べてやらなきゃいけないと思ったし、何度か話したことがある程度なのに俺はその役目は俺にしかできないと信じて疑わなかった。



気付いたら俺は彼女を一人の女として見ていた。



もちろんいろんな意味での“女”だ。



他の男子と笑って話していたらそれなりに嫉妬もしたし、その体を抱きたいとも何度も思った。


笑顔で適当にかわすんじゃなくて、ちゃんと話したい。


俺のことを知ってほしいし、俺はみんなの知らない彼女のことが知りたかった。




だから俺は、すぐに想いを伝えた。


特に緊張はなかった。


彼女の答えがどちらにせよ、俺が彼女のことを好きなのは事実だしそれをわざわざ隠すつもりもない。



でも、彼女は俺の告白をいつものように笑って受け流した。


だから俺は何度も「好きだから付き合ってよ」と言った。


でも何度言っても彼女の態度は変わらなかった。



「からかわないで」とか「はいはい」とか。



そして何度受け流されても俺の気持ちは変わらなかった。




今思えば初めはちょっと意地になっていただけだったとも思う。


高二とはいえ俺だってこれまでそれなりに誰かと付き合って別れるを何度か経験してきたわけだし、その経験があるのかないのかもよく分からない彼女にフラれるのが何となく気に食わなかったんだろう。


でもそんなのは初めだけだ。


何度受け流されたって俺は彼女を諦められなかった。

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