第22話
私は高校一年の時、二つ上のスワ先輩のことが好きだった。
テニス部の先輩はいつ見ても笑顔が爽やかで、遠くから見ていてもその雰囲気は人当たりの良さそうな柔らかなもので、たまに聞こえてくる先輩の話し方は想像通りいつも優しかった。
人気者だった先輩に、私は近付くことすらできなかった。
…いや、そんなのは聞こえのいい言い訳だ。
テニス部でもなく二つも学年が下であった私は、単に先輩との接点を持つことができなかっただけだ。
きっと持てていたってそれを生かすことなんてできなかったとも思う。
そもそもあの時は先輩とどうにかなりたいなんて思いもしなかった。
その姿を見られなかった日はこれでもかというくらいに落ち込むのだけれど、一瞬でも見かけられた日には今日はめちゃくちゃラッキーな日だとスキップしたくなるくらいに喜んだ。
たったそれだけのことが、私の日常を色鮮やかにしていた。
話したことすらもない私が先輩を好きだなんて、聞く人が聞けば笑うかもかれないけれど誰に何と言われたっていい。
あれはちゃんと、恋だった。
そんな先輩には同じ学年に彼女がいた。
それはもう学校中が周知の事実だった。
だから私ももちろん早い段階でそれには気が付いた。
気付かないわけがない。
学校外で先輩を見かけるときはいつもと言っても過言ではないくらいに、常にその彼女が隣にいたから。
その彼女は小柄で小動物みたいな人で、先輩は彼女のことがとても好きなのが側から見ていても手に取るように分かった。
先輩に好かれるってどんな気持ちだろう。
あんな優しい目で見つめられる彼女は一体どんな世界線で生きているんだろう。
私みたいな赤の他人にはどんなに考えてみたって全く分からないことだった。
先輩はいつも彼女のそばを離れなかった。
少し照れながら彼女を見つめる先輩に、私の胸はときめいた。
大事そうに彼女の手を握る先輩は何とも微笑ましかった。
だからこそ、私は見ているだけでよかった。
そんな二人の姿にショックを受けるわけではなくときめくだなんて、自分でも何が何だかよく分からない。
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