第53話

「一時はどうなるかと思ったけど、レコーディングに何とか間に合いそうでよかったー。」


「いつなんだよ?」


「レコーディング? 3日後。これから編曲して合わせなきゃなー。」




あれ? どうした? 晴都の顔を見れば、なんとも形容し難い表情をしている。




「随分攻めた生き方してんだな……さすが雪宮ぴあの。あの攻撃的な音楽を創るだけある。」


「なにそれ。そういうあんたも、性格の割にやっさしい音出すよね。あーでも、昔よりはクソガキじゃなくなったかも?」


「は?」


「昨日も思ったんだけどさー。何考えて弾けばあんな音出せんの?」


「何って……今は、好きな女?」


「あー、年頃だもんねぇ。天才少年ピアニストといえど好きな子や彼女の1人くらいいるか。」




納得。恋は人を変えるってやつ? 私も恋したら音変わんのかな。




「……そんだけ?」


「そんだけって? あ、ありがとね。おかげでまたなんか浮かびそうだわ。じゃ。」


「え? おい──」




晴都はまだ何か言いたそうだったけど、私はそれどころじゃない。楽譜を持って、私を待つメンバー2人の元へ走った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る