第26話

奥村晴都と特に会話もないまま、教室の前まで来た。さすがにさ、私だってさすがに、こんな長い間無言で隣歩かれんのは怖いよ。




「……じゃあ」




気まずさ故にいつもの私なら言わないであろう、別れの一言を奥村晴都に告げる。




「1つ聞いていい?」


「え、なによ。」


「バンドやってて楽しい?」




わざわざその質問をしてくる意図がなんなのか、知らないけど。




「楽しいよ。音楽は嫌いだけど、生憎音楽以外で私を表現する方法は知らないから。あんただって、ピアノ弾いてる時の方が素直で楽しそうなんだから、分かるでしょ。」


「まぁ、な。俺ピアノ弾いてる時楽しそうに見える?」


「私にはいつもそう見えた。他の人がどう思ってたかは知らない。」


「へぇ。……ぴあのさ、」


「なに。まだなんかあんの?」


「やっぱ俺のこと覚えてただろ。」




確信した表情で言ってくる。そうだとは言ってないけど、そう思えることは言ったかもしれない。




「…………覚えてない!!」




吐き捨てるように言って、教室に逃げ込んだ。

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