獣姫の最後の恋
みこ
レイラ
第1話
プロローグ
伽羅族、という種族がいる。
広くは獣族に属し、古来より“天下を得たくば、伽羅と灰を得るべし”と声高に叫ばれるほど名のある種族であるが、それゆえ伽羅族と灰族は共に虐げられる歴史を繰り返してきた。この世の全ての種族は伽羅と灰に通ず、とも言われる所以は、その生殖能力にある。
種族婚、という言葉がある。この世界には千を超えるといわれる程、多種多様な種族が点在しているが、他種族婚は子宝に恵まれにくい傾向にある。特に能力の高い、表舞台で活躍するような種族ではその傾向が顕著で、同種婚以外の婚姻に子供は中々望めなかった。
そこで目をつけられたのが伽羅と灰である。
伽羅と灰にもそれぞれ特色があるのだが、共通していえることは、極めて異種族と交わりやすい生殖能力にある。どの種族と交わっても一定した高い確率で子供を望め、且つ、生まれてくる子供は伽羅の能力を引き継がず、伽羅の相手となった者の容姿や能力を強く継承した。つまり、自分の血をより濃く残す為の子供をもうける手段として、彼らは重宝されてきたのである。
強欲な高い地位にある者達は、こぞって伽羅を手にいれようと躍起になった。大抵の場合は攫って自分のものとし、次々と跡目を作っては権力を恣にしていった。
伽羅族には灰族と違って二つの特徴がある。
一つには、伽羅と伽羅の間に生まれる子供は女が多いこと。これが良くない。古来より権力者には男が多く、次々と子供を産ませた後は伽羅の男をあてがい、生まれた女児を更に囲っては子種を増やしていくという負のスパイラルを幾重にも形成した。また一つには、生まれる数少ない男にある。彼らは獣にその身を変容させることが出来る希少種で、空を自由に駆ける最速の乗り物として重宝された。男が生まれようと女が生まれようと、伽羅はその身を狙われ続けてきたのである。
伽羅の能力は、他種族との交配の場合においては完全にその能力を失っていったため、歴史上に伽羅の名は記されてはいないが、今を生きる者の殆どが伽羅の血を少なからず引いているだろうと言われている。飼育される家畜の如く、伽羅族はひっそりと、しかし確実に今に至るまでその数を減らすこともなく生きながらえてきた。
そんな伽羅族に、一つの転機が訪れる。
双子の兄弟の圧政化において、彼らは伽羅を乱獲した。その上、伽羅と伽羅とを掛け合わせることなく、自身の欲望のままに家畜として扱った彼らの統治下で、伽羅はとうとうその数を減らし始める。伽羅はあっという間に絶滅の危機に立たされたが、そこにある少年が現れた。彼は、当時の伽羅族長にこう言った。
「それほどの能力を持ちながら、抗う力がないのが惜しい。伽羅はもっと己の価値を知り、自らを高く売るべきだ。ただ狩られるのではない。どうせなら売るんだよ、その身を高く。高く高く売りつけ、それを元手に逃げるといい。一か所に定住し、強い者に守ってもらうんだ。金を払って。守ってもらいながら、考えるといい。自分達の在り方を。今は身を売ることになろうとも、きっと子孫がその無念を晴らしてくれるだろう」
族長はそれに従った。逃げて逃げて、伽羅を欲して止まない者がいると聞けば自ら売り込んで金を稼いだ。攫えば良い者に金を出す者など最初こそいなかったが、上手く逃げてその身を隠すようになると、子を切望し、焦る者の中には交渉に応じる者が出てきた。双子の兄弟の政策下において、伽羅を増やす努力をしてこなかったことと、もうひとつ、彼らの背中を押すある変化が伽羅族に生まれた。
伽羅族の中に、強い力を持つ当主が現れたのである。その者は、不思議なことに、伽羅族の卵を司り、子種を操作する力を持っていた。彼らの生き残りたいという想いがそうさせたのか、当主はその能力でもって、全ての伽羅族の子種を封印した。これにより、伽羅を攫って奪っても、当主の許可なくして子供を作る事が一切出来なくなってしまったのである。これが伽羅を高く売る交渉の卓に、彼らをつかせた最大の要因である。交渉の末に引き取られる事になった伽羅は、その卵の凍結を当主によって解除され、また以前のように高い確率で子をもうける事が出来た。
そうして稼いだ金を元手に、最も見つかりにくい広大な領地、狩猟区に一族の住処を築いた。狩猟区とは、獣が住まう人間にとっては極めて危険な土地である。攫われることこそ減ったが、今度は人を喰らう獣に襲われる者が増える。獣から身を守るべく、なんとかして誰かの庇護を受ける必要があった。時期をただひたすらに耐え忍んで待ち、とうとうその時は訪れる。
伽羅族長に助言を行った少年が、双子の兄弟を打ち果たして、初めての世界統一を成し遂げたのである。彼の始めた今の世を、四国歳、と人は言う。その名の通り、世界を四つの国が治める統治法であり、世界の覇者は、自らの信じる者達を四国の王として各地に派遣した。彼らはさらに自らの国を大家、中家、小家に分けて家主と呼ばれる城主達に治めさせていくのだが、それはともかく、伽羅はこの頃、全財産を投げ打って一つの賭けに出た。庇護者を見つけることである。伽羅族長は、当主の能力を使えば、伽羅は自らの身でもって幾らでも金を稼げると売りこんだ。その相手が、唯一狩猟区の中に国を持ち、副官が伽羅と同じ獣族である氷国の王、その人であった。
氷国王は、売上の三割と引き換えに氷国領外ではあるが、その預かりとして伽羅の庇護を約束した。これによって、伽羅はついに自由を手に入れる。伽羅を欲しいという者がいれば、伽羅の元まで当人に足を運ばせ、その者に嫁いでも良いという者を募った。伽羅の女の意志が尊重され、当人を気に入る者がいなければ、伽羅を手に入れることは出来なくなる。そうして伽羅の者達は自らの意志で相手を選び、自らの意志で子をもうけるようになった。伽羅は、自らの生殖能力に価値を見出し、自らを高く売るようになっていったのである。虐げられし長き歴史の中で、ようやく掴んだ、伽羅族の繁栄である。
「今日は、圭の中家の子息が相手を探しにくるって本当なの、当主」
一国の王達は、それぞれの領地を更に大家と呼ばれる家主、つまり城主達に治めさせた。大家の領地内には複数の中家が存在し、中家は複数の小家を治めていた。大家はそれ一つで一国に近い程の領土を有し、それを束ねる王ですら簡単には干渉出来ない程の力を持っていた。
婚姻を結びたい当人が伽羅村に到着すると、広場の鐘を鳴らす。それを聞いた者の中で、婚姻に興味がある者は当人を見に来る。気に入った者がいれば名乗りを上げるが、相手にももちろん選ぶ権利がある。高い金を払って得る伴侶を選ぶのは当然のことであって、名乗りを上げた者の中に気に入る者がなければ、破談となる。基本的には子宝に恵まれぬ切羽詰まった者が訪ねてくるので、ご破算になることはあまりない。
「当主は選ばないの、男」
「この私に釣り合う男となると中々。子供産んだら、あたしは死ぬからね」
当主は不思議なことに、子供を産むと三ヶ月程度で死ぬ。誰に言われた訳でも宣告された訳でもないが、歴々の当主が皆そうして死んでいったとなれば、警戒は呪いとなる。それが分かっていても選びたい男に、残念ながらレイラは出会ったことがない。
「いいじゃないの、子供は産まなくて。自分の卵も操作できるでしょ。凍結して、楽しむだけ楽しめば」
「あんたは節操無いわね、しかし」
「なによ、あたしはちゃんと凍結しないで産むもん産んでるでしょ。伽羅の繁栄に貢献してるんだから、口うるさく言わないで」
ケイは舌を出して見せる。口うるさく言ったつもりはないが、喧嘩をするほどのことでもないので、レイラは話題を替える。
現在、伽羅では多くの女性達が当主、つまりレイラに卵の凍結を依頼し、実際に凍結している。氷国預かりの村となってからこちら、伽羅を攫いに来る者もなく身の安全は保証されているのだが、伽羅はその性質上、異性と交われば直ぐに子が出来る。子を産まず「楽しみたい」者は必然的に、卵を凍結というこの上もなく都合の良いレイラの力を、当然求める。
その数は年々増え、ケイのように子供を産んで伽羅の繁栄に貢献してくれる者は最早、稀な存在になったと言って良い。
「まぁ、氷国王の子供なら産んでもいいかもね」
「あれは別格でしょ。さすがのあたしもそんな高望みしない」
氷国王はこの世で最も美しいといわれるほど端正な顔立ちをしている。しかも国王である。どんなに頑張ったところで無理は承知だ。言ってみただけである。
レイラは頭を掻く。
「まぁ、綺麗だけど食指は動かないかな。子供だもの」
「馬鹿ね、子供でも一度お相手願いたいくらいの美しさなんでしょ」
「あんた、ほんと節操無いわ」
「うるさい」
氷国王は、少年王である。
実際の年齢は不明だが、肉体の年齢が十五前後で止まっているため、レイラなどでは食指が動かない。ただ、密かに恋心を抱いている者は伽羅の中にも大勢いると聞く。下々の者と仲良くするような人ではないが、顔を隠すということも知らず、飄々と城下町や狩猟区に一人で出かけていく。見かけた村の者が慌てて平伏するほど、突拍子もなく現れる。この伽羅にも姿を見せることがあるため、顔自体は知っている者もちらほらいる。言葉を交わしたことがあるのは、売上を納金するレイラくらいのものかもしれないが。
「大体さあ。子供産まなきゃ死なずに済むのよ?それが分かってんなら、産むなってな話でしょうに。あんたは産まないわよね?当主」
ケイはレイラを覗き込む。
「まぁねぇ。でも不思議な事に、死ぬと分かってても、それでも尚、歴代当主達は子供を産み、現に死んでったわけでしょ。堪えきれない何かがあんじゃないのとは思うけど」
「ただ節操ないだけでしょ。伽羅は子供を産む事だけが天命かのように、次から次から子供を作ってきた。要は、性に開放的なのよね、そもそもが。でも、今となってはヤる事と産む事は話が別な訳でしょ、当主のお力のお陰で。ヤっても、産まないという選択が出来るのよ。いい?産むな、当主。凍結するだけの事、ちゃんとやんなさいよ。当主が死ぬのを見せられる方の気持ちも考えて欲しいもんだわ、全く」
レイラは苦く笑い、否定はしない。
伽羅は確かに、その能力の性質上、体を重ねる事にあまりにも抵抗がない。だからこその、レイラの出番が頻発しているわけで。
「さてと、あたしは圭のお坊ちゃんでも迎えに行きますか」
レイラは重い腰を上げる。狩猟区の中でも危険とされる瑪瑙地区にある伽羅族の住処は、氷国王の力で獣から守られてはいるが、ここに来る当人達は護衛をつけて遥々やってくる。辿り着く事が叶わない者も中にはいるのだが、あまりそれが続くと伽羅としても商売にならないので、途中までレイラが迎えに行くのが最近ではお決まりになっている。
「いい男でありますように」
「それよりも選ばれる心配したら。何連敗中?」
ケイが小石を掴んだのを見て、レイラは宙に飛びあがる。当主になった時に得たのは生殖能力を凍結する能力だけではない。一族を守れるように、腕力も脚力も比較にならないほど上がった。その自慢の脚力を使って、木々の間を飛び進む。
この辺りの獣は非常に獰猛であるものから、人語を理解する頭のいい大人しい獣まで様々いるが、総じて強い。出くわすのがどちらであるかで運命は決まるが、幸いなことにレイラには与えられた当主の力と、氷国王に賜った腕輪がある。知能の高い獣が多いこの瑪瑙地区の獣は、氷国王という絶対的存在を理解している。彼に刃向うことを本能的に恐れているのか、この腕輪があれば、獣に出くわしても襲われることはまずない。
(そろそろ、この辺りまで来ていてもいい頃だと思うのだけれど)
レイラは辺りを見回す。今回伽羅の女性を求めてやってくるのは、圭大家属領の中家の家主の子息である。つまるところ、嫁ぐ事にでもなれば玉の輿も玉の輿だ。いつも以上に女性達に気合いが入っている事は、分かっている。
いいところの子息というものは、大概供をぞろぞろ引き連れているために目立つ。高いところから見渡せば、大抵見えるものなのだが。
(まさか全員喰われちゃったんじゃないでしょうね)
レイラは冗談半分にそんなことを考えながら、地に降り立つ。とりあえずもう少し先の方まで行ってみるかと思ったレイラの耳に、それは飛び込んできた。悲鳴のように聞こえた。
(まずい、やっぱり襲われてるのかしら)
レイラは走る。お客を失ってしまうと痛い。悲鳴が聞こえたと思しき場所まで走り抜けると、そこには一人の女がいるだけだった。獣に出くわしてしまったらしく、剣を片手に応戦しているようだが、どうにも分が悪いように見える。レイラの探し人ではないようだったが、ここまできて見殺しにするのも後味が悪いので、腹の底から声を張り上げる。
「獣よ、この腕輪が見えるか。引け!」
驚いたように獣の瞳孔が開き、後ろ髪を引かれるように去っていく。獰猛な獣が、腕輪を見せつけるだけで逃げていく。氷国王様様だ。その姿が見えなくなってから、女は剣を地に突き立て、その柄に体重を預けるようにしてへたり込む。
マント姿の女は、緩慢な動きでこちらを振り返る。
「どなたか存じませんが、危ないところを有難うございました。道に迷ってしまったようで」
レイラは、その時の衝撃を忘れない。
華奢な体つきをしているが、その声は男のものだった。美しく伸びた髪を一つに束ね、肩甲骨の辺りまで長さがある。振り返ったその顔に、レイラは言葉を失った。氷国王とはまた違った、はっとする美しさ。あどけなさの残る顔をしているが、妙に艶めかしい色気がある。見ようによっては女にも見える中性的な出で立ちで、可愛らしさの中にもどこか、男を感じる何かがある。
「おまえは・・・圭の中家縁の者?」
「圭?いいえ。私はただ道に迷っただけで。助けてもらっておいて更にお願いをするのは恐縮なのですが、ここはどこなのか教えていただいても?先ほどの獣の感じだと、変なところに迷い込んでしまったようですが」
「ここは瑪瑙地区。氷国がもうすぐそこよ」
瑪瑙、と男は小さく呟いて、肩を落とした。
「瑪瑙の獣はちょっと手に余る。本当に、感謝します」
「どこに行こうとしていたの?」
男は大きく息を吐きながら立ち上がり、真っすぐこちらに居直った。背は、レイラよりも少しだけ高い。しかしマント越しに見ても華奢で、レイラが掴んだら折れてしまいそうなほど線が細かった。まだ、少年だ。
「雷国に戻ろうとしていたんですけど。途中で獣に立て続けに襲われたもので、方向感覚が狂ってしまったようですね」
さほど手負いのようには見えなかったが、なるほど、ところどころ服が擦り切れて血が滲んでいる。
「雷国、こちらでいいんですよね。本当に有難うございました。何もお返しが出来なくて申し訳ないのですが、先を急ぐので」
小さく礼をして去ろうとする男を、慌てて引きとめる。
「はい?」
マントを掴まれた男が不思議そうに振り返る。なぜ、引きとめたのだろう。
「お礼を」
レイラは、少しだけ間を置いて言葉を紡ぐ。近くで見る男の瞳はなんとも美しい宝石のようで、心が吸いこまれていくように目が離せない。
「生憎と、持ち合わせもなく」
男は困ったように服を探る。金銭を探しているのだろうが、そんなものはどうでもいい。
レイラは男の瞳にくぎ付けにされたまま、瞬き一つせずにその顔を見る。開いた口から、思ってもみない言葉が漏れ出てきた。
「体で」
「は?」
男が呆気にとられたように、ぽかんと形の良い口を開けた。なんて、可愛い。
「体で払って」
「体でって・・・何か、私で力になれることでも?」
困ってるようには見えませんが、と男は苦く笑う。瑪瑙の獣を追い払えるのだ、困ってるようには見えなかろう。
「あたし、貴方の子供がほしいわ」
「・・・は?」
男は、今度こそ開いた口が塞がらないのか、呆然とレイラを見下ろす。レイラはその瞳から目を反らすことなく、その細い手首を掴む。一歩体を寄せると、甘い香りがした。くらくらと、脳が蕩けそうなほど甘い、体を熱くするいい香り。
そっと、その男の唇に口づけをする。一瞬身を強張らせた男の手首を握ったまま、離れようと身を捩る男を力で押さえつける。その背に手を回して抱き締めると、折れてしまいそうな程に細かった。
「少し、細すぎるんじゃない。ちゃんと食べてるの?」
レイラは問うが、男は起こっている事態に頭が追いついていないのか、ぱくぱくと口を動かすだけで言葉が出てこない。その口を再び塞ぐように唇を奪う。
「ちょ、あの」
レイラは身を捩る男を押さえつけて押し倒すと、馬乗りになって自らのマントを脱ぐ。
「あたし、本気よ」
男は顔を真っ青にして、ようやくこれから襲われることに気付いたのか、慌てて逃げようともがく。
「ど、どうして私など」
「こんな綺麗な顔して、どうしてと言われても。仕方がないでしょう、貴方だと、思ってしまったのだから」
「意味が分からないんですけど!?」
「分からなくてもいいのよ。黙ってあたしに抱かれなさい」
「い、いや!駄目です、ちょっと待って!他の方法で、体で返しますから、待っ・・・」
その口を塞いでやると、レイラはいつになく興奮する。キラキラと輝くような若さと美しさ、なんて綺麗な瞳。さらりと流れる髪の一筋までが愛おしく、その首に唇を這わせると、気が狂いそうなほどに甘い男の味がした。
男が何やら叫んでいるのが聞こえるような気がするが、それすらも耳に心地よい。
(ケイ。あたしも大概節操なしね)
レイラはくすりと笑い、必死でもがく男に体を重ねてみる。服の上からでも心地よい体温が、レイラを優しく包みこんでいく。卵を凍結するべきか、とは全く考えなかった。子を産み世代を繋いできた伽羅族の性なのか、この男の子が欲しいと思ってしまった心がもう止まらない。
悪いわね、ケイ。
レイラは心の中で、悪友に謝罪する。産むなと、まさに言われたばかりだ。歴代の当主が何故、凍結を選ばず子を産む選択をしたのか。頭で考えれば馬鹿な、とレイラとて思う。産まずとも今、この刹那を楽しむだけで満足すれば良い筈なのに、それでは駄目なのだ。どうしても、駄目だ。今この男を抱けたとて、繋がりはそこで終わる。この男は雷国に帰り、もう二度と会う事もない。
子供をなせば、別だ。この男との繋がりが残る。この男の子供を、自分が。他の誰でもない。自分が産みたい。
例え子を産んだ瞬間に自身が命を落とすことになろうとも、この命と引き換えにしても今、どうしても、この男が欲しい。
レイラはそっと、男の耳元で囁く。
「観念して。貴方はあたしにとって、命を賭けるに値する運命の男だから」
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