第3話 物語が私を救った話

 残酷な現実の中にも、小さな幸せはあるものである。

 布団の中で自分の赤ちゃんをあやすと手足を不器用にバタつかせ、にこやかに笑い、かわいらしい表情をする。抱っこをすると体温や柔らかさを感じて、心があたたかくなる。子どもの純真な表情や、まだ見ぬ未来への期待に触れることで、私の中には、新しいやさしい気持ちが生まれた。気持ちが明るくなり、心が、あたたまっていった。

 二十歳で子供を産み、幸せだったが、何もない田舎で退屈だった。子供を預けて、仕事ができるような身内や環境ではなかった。日々の生活の疲れが、心に不穏な何かを漂わせ、積み重なっていくのを感じた。自分自身が何者であるか、何をしたいのかわからなくなり、体も重く動けなくなってしまったのだ。

 子どもが寝ると、暗い部屋で、ひとりぼんやりと、ただテレビを眺めていた。テレビでは少年漫画のアニメが放送していた。世界がどんなに理不尽でも夢をあきらめずに追いかける姿や、厳しい状況でも友情や努力を通じ、困難に立ち向かい、乗り越える姿が描かれていて、心にしみた。また、お笑いのある作品も主人公たちの明るさやギャグが楽しい気持ちにしてくれた。

 純真な心を持つ主人公たちのありさまが、心にとても響いたのである。

 好きな話はたくさんあるが、中でも印象に残っているものは、『ゴースト・イン・ザ・シェル』というSFアクション映画である。

 女の子の孤独や自己探求、いわゆる自分自身が何者であるか、自己理解の中での自分の位置や役割、特徴や価値観、認識や感覚などの心理描写が印象的な作品だ。主人公の女の子はサイボーグになり、自分を見失ったり孤独を感じたりしながら、なんのために生きるのか模索したりする。そのうち、人々に交流して心を取り戻していく。

 独特なSFの雰囲気の世界ではあるが、とても共感し、人に触れることの良さなども、改めて知ることができた。

 物語は一方的な表現ではあるが、他人に触れ、孤独を感じなくさせてくれる。創作も自分と向き合い、何かを見つけ、日々が少し変わることがある。

 退屈だったり、困難があったり、理不尽なことが起こっても、新しい物語と出合うことで解決する知恵を手に入れたり、心があたたかくなったり、考え方に良い影響を与えられる。

 作者の純真さや粋な考え方や、心のあり方、夢や友情、努力などの描写が私の心をつかんで動かすのである。

 貴重な経験を与えてくれる作品たちに、敬意と感謝の念を抱く。そして、自分の作品で自己表現するだけでなく、他人に触れることで得た気づきや感動を伝えたり、感謝の気持ちも込めたいなと思うのである。


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