第92話



高校2年は大成の年だった。


小さい頃から続けてきたものがやっと実った年。





その頃の私は、憧れの高校生国際美術展で受賞、願わくば内閣総理大臣賞獲得を目指して本腰を入れていた。


放課後になると真っ先に美術室に駆け込んでいったし、これっていうアイデアが沸かない時には芝生に座ってグラウンドを眺めていた。



運動部のランニングの掛け声が聞こえる。


野球部、ソフト部、サッカー部、テニス部、それから…陸上部の練習風景に目をやって、さらにたった一人の男子部員にフォーカスを当てる。






私には、



私には──。





同い年の幼馴染がいる。





悩んでいる時にはいつも打開策を提案してくれる人。


美術部と陸上部、文化部と運動部であっても、目標に向かって頑張るという本質は変わらないって、切磋琢磨をして鼓舞しあっていた。






彼も頑張っている。


私も頑張らなきゃ。



ランニングをしているはずみで上下する黒髪、流れる汗、鍛えられていて筋肉質なんだけれどどこか華奢な身体。


別に見なくてもいいところまで見てしまう。校舎前の芝生に座っている私に気付いた彼は手を振ってくれる。


心は単純だった。



私は、彼を———……。









高校1年の冬が終わり、2年生の4月になった時には、高校生国際美術展に提出する予定の作品がほぼ完成しきっていた。


6月の応募締め切りに余裕をもって間に合わせるために、1年生の頃からじっくり時間をかけて描きあげたものは、昔からお世話になっておる先生も褒めたたえてくれるくらいの出来だった。



熱い思いをぶつけ切ったはず。


私の伝えたいことはこれだ。


でも、当たり前だけれど何事においても伝えたい気持ちだけではうまくいきっこない。会話においてもそうなように、双方の理解があってはじめて会話が成立する。


だから、審査員をはじめとして実際にこの絵を見ている人がどう感じるのかは、想像して描くしかなかったんだ。




こうしたら審査員的には高評価だろう。


こうしたら差別化を図れる。


大きな美術展で入賞するためにはそうすることが最善なのだと、なにかを見誤っていたのかもしれない。




———絵の本質はもっとリアルな場所にあったんだ。

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