第91話

涼しい風が肌に当たる。


草木の匂いを思い出す。


あの場所に、どんなシチュエーションで、いつ、誰と、──……誰と、訪れて、




「おお、ハイキングデートにもいいって書いてある!」


「…え?」





──…ハッとした。


ドクリとした。




エリさんは、サトルさんと行くのに最適だという意味で観光マップに反応を示していた。



ただそれだけ。


それなのになんで今、胸がざわついたのか。


自分でも分からない。違和感だけが残った。



ハイキング……?





「ねえねえ、気になること、一個聞いてもいいかな?」





私は無意識にこの話題を避けていたのかもしれない。



「私、恋バナが好きでね。サトルとか学生時代からの付き合いなんだけど、君は好きな子とかはいないの?」




“彼氏”いないの?ではなかった。


エリさんは"好きな人"を聞いてきた。





居心地の悪い、変な風が胸を撫でてくる。


ゆらゆらと浮かんできたのは1年前の出来事。高校2年の頃を思い出していた。

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