(3) 東武金崎→新鹿沼
第50話
老婦人と、そのお孫さんだろう女の子に会釈をしてまた向き直ると、ハルナさんは頬杖をついたまま私のことを見下ろしてきている。
「終点まで」
「え?」
誇張することもなく、彼からはおちゃらけた雰囲気など感じられなかった。
「この電車が東武日光駅に着くまで。それまでのあいだに、俺が一体なんなのか、見破ってみてよ」
カチャリ、眼鏡を正すハルナさんはそれだけ言って窓の外を眺めてしまう。
──正体?
含みをもたせた発言に胸がざわついた。
誰?
ハルナさんは……一体誰なんだ。
どの記憶を探ってもハルナさんは現れ出てこなかった。
だって本当に知らないんだ。
近所にお兄さんが住んでいたこともなく、学校の先輩と交流が深かったわけでもない私は、年上の男の人などと接点なんてもたなかった。
──やっぱり、何かを企んでいる悪い人なのだろうか。
人を殺したことがあるってまさか、そんなこと。
『只今ー、日光線、鬼怒川線などで特急「リバティ」の導入を中心としたダイヤ改正が実施されました。日光・鬼怒川方面において快適性・速達性・利便性の高い特急列車を増発することに伴い──』
揺れる車内で無機質なアナウンスが聞こえてきた。
耳にするのは今日で何回目になるんだろう。
多分、それをきっちり聞いている乗客は1割いるかどうか。
ああ、いいや、ハルナさんのことを考えるのはやめよう。
邪念を振り払って窓の外を見る。
車掌さんの抑揚のない声を耳にしながら、新栃木駅でも見たあの特急列車を思い出した。
あれがリバティ。
毎日通学で使っている路線なのに、見たことがなかったなあ。
今度は走ってるところを見てみたいな。
なんて考えながらアーモンドチョコを口に放り込んだ。
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