第4話

駅のロータリーには送迎のために待機している車が数台あった。


広い駐輪場を囲むように植わっているのは大量のイチョウの木で、秋になると銀杏の独特な匂いと合わせて、地面が悲惨なことになる。




見慣れている光景。


フウ、と息を吸って、眩しい太陽を見つめた。





ただの最寄駅。


思入れなんてないけれど、上りのホームに車体が赤く塗られている電車が停車しているのを見て、あ、と思った。


東武日光線の"快速電車"は、特急料金が発生しないローカル線の中では一番停車駅の少ないといわれている。


だからあれに乗れば、浅草へも乗り換えをせずに行けるから便利なんだよね。




首都圏の郊外に位置しているこのあたりは家賃も安いし、最近なんて集合住宅地が建設されてきている。



山も、


田んぼも、


川もある。


海はないけれど。



近年ではその圧倒的な住みやすさと豊かな自然環境が評価され、"子育てに適している町"として注目を浴びている。


それが、






──栃木県栃木市。




だだっ広い関東平野を一望できる太平山おおひらさんは市のシンボルだ。


かの上杉謙信も訪れたというほどの由緒あるお山の頂上には、歴史の深い太平山神社が鎮座している。




春には桜で彩られ、


梅雨には紫陽花あじさいが咲き誇り、


夏には木々の緑が生い茂り、


秋には紅葉が楽しめ、


冬にはごくたまーに、雪が積もる。



そんな四季折々の観光アピールポスターを横目に、私は──新大平下しんおおひらした駅の改札をくぐった。

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