第8話 外(デバフ環境)で遊びましょう②

 ということで土曜日。

 待ち合わせ場所の噴水広場で俺は呱々原さんを待っていた。


 まあ待つと言っても約束の十二時まであと三十分あるんですけど。

 興奮して早く来すぎた。


 ちなみに俺の格好は、ネットで調べて無地の白シャツ、黒ズボン、白靴をチョイスした。


 昨日の夜に決まったからお洒落な服なんて手元にないし、そもそも分からないし。

 せめて余計な着こなしをしてマイナスに見られない事だけは心掛けた。


 ワックスも上手くつけられなかったのでなしである。


 そもそもデートじゃないからね。

 友達と遊ぶだけだから。


 呱々原さんはどんな私服で来るんだろうか。


 あの容姿に見合ったお洒落な服装で来たらと想像する。

 凄く嬉しいかも。デート感あるよね。


 いやでも、自分と比較して萎縮しちゃうかなー。


 そんな感じで期待半分、不安半分で呱々原さんを待っていると、約束の十五分前に新しく誰かが噴水広場に入ってきた。


 黒キャップ、サングラス、マスク。更にだぼっとした灰色パーカーのフードをキャップの上から被り、下は黒ジャージ、白靴の小柄女性。


 ぜひ職質してくださいスタイルである。


 こっちに向かってフラつきながら歩いてくる。


 呱々原さんまだかな。


「ゼェ……あの、お、おはよう、ござい、ます! ……ゼェ」


 呱々原さんだった。


 いや分ってたけどさ。


 相当に息を切らしていて、今にも倒れそうだ。

 待って情報量が多すぎる。


「お、おはよう!? 呱々原さん大丈夫!? ゼェゼェ言ってるけど!?」

「ゼェ……あの、た、体力が、……無くて」


 一旦木陰のベンチで呱々原さんを安静にさせて、自販機で買ってきたスポーツドリンクを手渡した。


「……あ、ありがとう。ご、ごめんなさい、お、お金いくらですか?」

「ううん! 良いよ良いよ!」


 財布から小銭を取り出す呱々原さんを俺は制止する。


 申し訳無さそうにチビチビとペットボトルを飲む呱々原さん。

 

 ……触れて良いの? ねえ恰好について触れて良いの?

 気になるんだけど。


「あのさ、何でグラサンしてんの?」


 駄目だ好奇心に勝てなかった。無理だよこんなの。


「ごめんね! 気になっちゃって」

「……え、いや、あの。そ、ひ、……人目が、苦手で」

「あ、そうなんだ! えっと、帽子とフードは? 暑くない? まだ五月だけど今日二十六度あるし」

「……に、日光が、その、に、苦手で。……あと、ひ、人目対策にもなるし」


 大丈夫呱々原さん? 死なないよね!?

 俺さっきからほぼ弱点しか聞いてないんだけど。


 それにいつもより喋り方も弱気だし。

 地味に人目対策で二重ブロック掛かってるし。


 外が苦手な呱々原さんに無理をさせたんじゃないかと俺が心配していると、呱々原さんがペコペコと頭を下げてきた。


「……ご、ごめんなさい! こ、こんな服しか私、も、持ってなくて」

「ぜ、全然良いよ服装なんて! 寧ろ呱々原さんらしくて良いなって思ったくらいだよ! それより遊びの誘い受けてくれてありがとね。それが凄く嬉しいよ」


 最早フォロー出来てるのか分らないけど、俺がそう言うと、


「そ、そうかな。に、似合ってるかな。そ、それに嬉しいって、……うぇへ」


 何やら呱々原さんから嬉しそうな声が漏れてきた。セーフにしよう。


 そうだよ。自分で口にして思ったけど、突然突拍子もなく俺が誘って、こうして来てくれてるだけでありがたいんだからさ。


 もう細かい事を気にするのはやめよう。俺だって身なりの事なんか全然分んないし。


「呱々原さん大丈夫? まだ休む?」

「うぇ!? ……う、ううん。ありがとう」

「じゃあ、行こっか」

「う、うん」


 と言う事で、俺と呱々原さんは二人でアニメショップへと向かった。


■■■


 呱々原さんのペースに合わせて十数分歩いて、無事店内に到着した。


 彼女を見ると体力的に問題なさそうなので、そのまま店内を二人で回ることに。


 グッズコーナーで呱々原さんの動きがちょいちょい止まる。


「か、可愛い。えへへ」


 今は二頭身にデフォルメされたアニメキャラやVチューバーのフィギュアの箱に夢中なようだ。

 俺の存在を忘れているのか、首を軽く左右に振って愛でながら鑑賞している。


「それ好きなの?」

「!? う、うん。か、可愛いなって」

「確かに良いね!」


 一時はどうなるかと思ったけど、楽しんでいるようで良かった。

 なんだか俺も嬉しくなる。


 二人でしばらく色んなコーナーを物色して、本命のラノベコーナーに。


「あったよ! 『ジミカノ』!」

「う、うん」


 いつか俺の作品も店頭に並んで欲しいな。


 そんな事を考えながら、二人で一冊ずつ持って、レジへと向かう。


 その途中、店内放送が切り替わって馴染みの声が聞こえてきた。


『わっはっは~! 『2.5Dプロダクション』所属の狂気のマッドサイエンティスト、『鳳凰陰はかせ』なのだ〜! 今日はお店に来てくれた皆に、大事な告知をしちゃうのだ~!』


 まさかのはかせの店内放送である。

 っていうか今本人目の前にいるよ!


「呱々原さんほら聴いて! はかせの声だよ! っていうかやっぱ凄いね呱々原さん!」


 嬉々として俺は呱々原さんに目を向けると、


「………………………………………………ひゃい」

「呱々原さん!?」


 彼女は全身が真っ白になって固まっていた。


「ど、どうしたの!? ちょ、大丈夫!?」

「………………………………………………ふぁい」


 駄目だ! この店内放送が原因なのか!?


 この場にいると危ない? ので、ひとまず脱出するために慌てて呱々原さんの腕を引いてレジへと連れていく。

 先に呱々原さんを前に立たせて会計を済ませることに。


「いらっしゃいませー! 『ジミカノ』新刊をお買い上げのお客様には、特典が付いてまいります! こちらのパネルからお選びください!」


 そう言ってレジの陽気な女性店員さんがパネルを用意した。

 これが本来の目的である。


「ど、どれにするの!? 呱々原さん?」


 返事がない。


「……呱々原さん?」

「~~~~~~~~~~~~~~~~~」

「呱々原さん!? 溶けてる溶けてる!!」


 そうだ! 呱々原さんは人と対面して話すのも苦手だった!


 その後、何とか呱々原さんにパネルを指さして貰い、俺がフォローしながら会計を終えて、店の外へと脱出した。


 どうやら外の世界は呱々原さんにとって、とんでもなく天敵らしかった。

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