【悲報】超人気美少女Vチューバー、リアルで俺としか会話が成り立たない ~配信で俺のことよく話してる気がするのは気のせいだろうか?~
うちわ
第1話 大人気Vチューバー『鳳凰院はかせ』
俺の名前は槙島 日向(まきしま ひなた)。現在高校二年生。
早速だが俺の夢を紹介しよう。
プロのラノベ作家になって自分の作品をアニメ化させる事。
これが今の俺の夢。
幼い頃から中学校に至るまで、アニメ、漫画、ライトノベルと順当にハマってオタク街道を歩んできた俺は、ある時、「このまま普通に生きて普通に死にたくない!」って心の底から強く思った。
きっかけは二つ。
一つは、泥酔して仕事から帰ってきた父親から「会社で働くってのは辛いことで、我慢は当たり前なんだよ。お前もいつか同じ目に合うから分かる」って言われた時。
絶っ対に分かりたくない! って思った。
いや、父親は一家の大黒柱だから尊敬はしてるんだけどさ。
でもなんか毎日辛そうなんだもん、嫌だよそんな未来。
二つ目は、劇場版になった大好きなアニメ作品を、映画館で観た時。
原作ラノベ一巻の発売当初から追ってた作品だったから、アニメ化どころか映画化もされて感慨深い気持ちがあったんだけど。
何よりも俺の目を引いたのは、映画館に来場してる観客の数だった。
多かったんだよ、凄くね。
んでね、羨ましいなーって思った。
俺、承認欲求の塊だからさ。
ようは、一社会の歯車として会社にこき使われてひっそりと死にたくない!
何かしらで成功して、特別な人間として多くの人間からチヤホヤされたい! って思ったわけ。
んで早速、高校入学直後から、プロのラノベ作家を目指すことにした。
具体的には、小説投稿サイト『ヨミカキ』に自分の小説を投稿して出版社から声が掛かる事を狙ってみたり、ライトノベルの新人賞向けの小説を書いてみたりした。
結論だけ言うと、この一年間、小説自体ほとんど書けなかった。
いや、ちょっとは書いたんだよ? ゼロ文字じゃない。
でも書いてる内に「これ、面白いのかな?」って思って何度も書き直してる内にモチベーションが無くなったり、読者の反応が気になって『ヨミカキ』に一話、二話投稿してみたけど、全然PV数が伸びなくて書かなくなったり。
振り返ってみると、小説を書かずにネットサーフィンしてる時間の方が圧倒的に多かった。
そうして気付けば、二年生。
時期も四月の後半に差し掛かっていて。
この一年間努力しなかった後悔と自分に対する怒り、将来への不安から、学校帰りに机に座って(……死にたい)ってなってるのが俺だった。
『ビッグになる事を夢見て努力を始めるけど、三日坊主で終わる人』なんて世の中沢山いると思う。
そこまで含めて俺も『普通』の人だったのかな、なんて考えがふと頭を過ったり。
「……もうやだマジで死ぬ! ……ってそうだ、『はかせ』観ないと」
俺はPCのブラウザ画面で動画サイトを開くと、最近ハマっていたVチューバー『鳳凰院はかせ』の切り抜き動画を検索した。
Vチューバーとは、3Dイラストのキャラクターアバターを通してライブ配信や動画コンテンツを提供する人達の事を言う。
何故俺がそのVチューバーにハマっていたかというと、一言で言うと、可愛いからである。
視聴者の俺らからすると、二次元イラストがまるで生きてるみたいに動いたり喋ったりしてくれるのだ。
「あくまでイラストが可愛いだけ、中の人に幻想抱くな」とか言う層もいるけれど、可愛いイラストが可愛い声で喋ってみ?
無理だってハマるよ、だって可愛いもん。
そんな脳みそお花畑の俺がイチオシするVチューバーこそ、『2.5Dプロダクション』所属の『鳳凰陰はかせ』だった。
■■■
◇20:00~ 鳳凰院はかせの配信◇
「わっはっは~! 『2.5Dプロダクション』所属の狂気のマッドサイエンティスト、『鳳凰陰はかせ』なのだ〜! 今日も皆を虜にして世界を混沌に陥れるのだ~!」
【コメント欄】
お、始まった
相変わらず声が可愛い
はかせ~!!
今日も陰キャ話聞かせて
「……ハァハァハァ! 誰だ開始早々陰キャって言った人! アタシは陰キャじゃないから!」
【コメント欄】
陰キャだろ
……陰キャじゃない、だと?
自分の切り抜きを観た方が良い
お前ら辞めてやれ
「ふーん、へー、あーもう良いよ皆そう言う事言うんだ! じゃあちょっとさ、皆見ててよ! ちょうど今日同じ事務所の『如月みつき』ちゃんに電話してお泊りのお願いするつもりだったからさ! アタシ最近こういう事が出来るようになったんだよ? もう陰キャって言わせないから!」
◇通話開始◇
鳳凰院はかせ「……もしもし。みつきちゃん?」
如月みつき「おう! どったのはかせ?」
鳳凰院はかせ「……そ、その、大事な話が、あって、ですね、はい」
如月みつき「お、おう? 大事な話? どした? 大丈夫か?」
鳳凰院はかせ「……ら、来週さ」
如月みつき「うん」
鳳凰院はかせ「……そ、そのさ」
如月みつき「おう」
鳳凰院はかせ「……東京で、ライブイベントがあるじゃん。『2.5Dプロ』の」
如月みつき「おー、あるね。はかせも出演するよね?」
鳳凰院はかせ「……う、うん。それでね」
如月みつき「うん」
鳳凰院はかせ「……私のイベントも、ありまして、ですね、二日間」
如月みつき「あー! ……泊まりたいって事?」
鳳凰院はかせ「くぁwせdrftgyふじこlp;@:「」」
如月みつき「ちょっ!! はかせどうした!?」
鳳凰院はかせ「ハァ、ハァ、ハァ!! そそそそそ、そそそ、そうです。あのその、ご迷惑でなければ、いや既にこの通話が迷惑になってるかも」
如月みつき「おいおいおい落ち着けはかせ!? 良いよー全然! 泊りにおいでよ嬉しいよ!」
鳳凰院はかせ「え!? ほ、本当に?」
如月みつき「全然良いよ! 大事な話って言うから何事かと思ったよ!」
鳳凰院はかせ「あ、ありがとう! ……じ、じゃあまた、連絡、するね?」
如月みつき「おう、待ってんぞ!」
◇通話終了◇
「いやったああああああああああああああ!!!!! みつきちゃんホント天使過ぎるよ!! 神!! 神だよ!! ほら! こうやって友達の家に泊まりに行くことも出来るんだよ!! これでも皆私の事陰キャだって言うの皆はさ!?」
【コメント欄】
陰キャだろ
純度100%陰キャだったな
ド陰キャ
もうやめてやるんだ、俺たちが悪かった
■■■
「……可愛いんだよな~。あと、やっぱり面白い。にしてもこの明るい方が素なのかな」
一時間程度の視聴を終えて、俺は自室のベッドへとダイブした。
活動開始から1年で登録者数200万人を突破した『2.5Dプロダクション』所属の大人気Vチューバー『鳳凰院はかせ』。
アバターの見た目は、紫がかったピンクの髪色におさげの髪型、小柄な体形に学生服の上から羽織ったロングの白衣が特徴。
基本は素直で引っ込み思案な性格だけど、時折リスナーや仲の良いVチューバーには調子に乗った態度を取ったり、かと思ったら初対面やコミュ力の高いVチューバーに絡まれた瞬間に借りてきた猫みたいに大人しくなったり。
凄く可愛いけど、絵に描いたような内弁慶の陰キャムーブも見てて飽きないし、とにかく人気の理由は凄く良く分かる。
なんか愛でてるみたいな言い回しになったけど、俺よりもずっと結果を出して多くの人から賞賛されてる凄い人なんだよな。
だからこそ逆に分からない、そんな人がどうして__。
……と、一人疑問を感じていた俺のスマホに、〇INEの通知が一件来た。
送り主を確認すると、同じクラスで一緒に図書委員になった呱々原さんからだった。
呱々原『槙島君こんばんわ』
槙島『あ、呱々原さん、こんばんわ~』
呱々原『明日、図書の貸出・返却の問題点に付いて報告会があるらしいよ。先生から聞いた』
槙島『そうなんだ、ありがとう』
呱々原『うん』
その業務連絡だけ即レスで話し合って、会話の進行はストップした。
そのまま十数分が経過する。
……。
一見無機質に見える呱々原さんのメッセージ。
俺はこの一言を伝えるべきか数分悩んで、やっぱり言う事にした。
槙島『あのさ』
呱々原『うん』
槙島『観たよw』
……。
……。
……。
呱々原『!!!!!!!????????????????』
呱々原『今日私変な事ばっかり言ってなかったかな!? 大丈夫かな!?』
槙島『大丈夫だよ呱々原さん、落ち着いてw いや凄く面白かったよ!』
呱々原『変じゃないかな? ひょっとして槙島君には面白おかしい人に見えてた?』
槙島『いやいや全然変じゃないよ! 素直な良い人柄が出てて良いなって思ったし、大勢の人を楽しませてて凄いなとも思うし』
呱々原『そっか、よかった。槙島君にだけは、変に思われたくないから』
その発言に胸がトクンと高鳴る。
あまり勘違いする事は言わないで欲しい。
槙島『とにかく大丈夫だから』
呱々原『うん』
槙島『詳しくはまた明日話そう』
呱々原『うん』
槙島『じゃあ、お休み』
呱々原『うん、お休み』
挨拶のメッセージを最後に、俺はスマホをベッドに放り投げて仰向けに寝転がった。
自分の置かれている状況が良く分からない。
地に足が付いてないような、フワフワとした感覚。
「……どうしてこんな凄い人と俺、仲良くなってんだろう」
彼女の名前は呱々原 夜奈(ここはら よな)さん。
俺と同じクラスの同級生であり、同じ図書委委員の仲間であり、そして、
大人気Vチューバー『鳳凰院はかせ』の中の人である。
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