第88話
「でも…その話が、2人が浮気をしていない。という、理由にはならないと思います。」
はなちゃんにそう言われた。
「彼女にとって彼はあくまでも特別な存在。好きな人ではないんだ。………いや、好きだとは思う…でも、彼女はその事実に気がついてない。と言うのが正解なのかな…」
「それでも…私は隆さんが好きです。彼女に負けないくらい。」彼の婚約者は泣いていた。
「なんで……優馬さんはそこまでお姉ちゃんの為に行動できたんですか…?」はなちゃんにそう聞かれた。
「一つは、兄の最後の望みだからだ。彼はいつだって彼女の笑顔を望んでいる。……というのは、建前で…僕もみなみの笑顔をもう一度見たいと願っているからだ。」
はなちゃんと、まりあさんは顔を上げた。「じゃあ、なんで他の男に…」と言いたげな顔だ。
「みなみは…利口そうに見えて少し抜けてて、実は単純だ。そして、不器用だ。そんな彼女が笑ったのは藤岡さんの前でだけだ。僕にはあんな風に彼女を笑顔にできないよ。」
少しだけカッコ悪い事をいうとすれば、少しずつ彼女に惹かれていた。
いつだって離婚の準備はできていたが、その言葉を出さなかったのは、引き留めたい気持ちがあったからかもしれない。
俺の作った料理を、俺の見ている前では無表情で食べるけど、俺が姿を消すと頬を緩めながら美味しそうに食べていたり、
たまにソファで眠っている彼女が「…りゅう…」と、寝言を言いながら涙を流す姿を見て、その対象が自分であればいいのに。
そう思ったこともあった。
「まりあさんには本当に申し訳ないことをしたと思っています。僕の独断で貴方を傷つけたことには変わらない。」
「私…知ってたんです……彼は私になんて全く興味なんてないこと。いつも遠くを見てる気がして、私なんて眼中に入ってないこと。わかってたのになあ…離すことができませんでした。」
彼女はまた、涙を流した。
「金髪でカラコンを入れる前の、周りの人とは少し見た目の違う彼の事…大好きでした……でも、日本に帰国して、髪を黒く染め綺麗に整えて、周りに合わせた色のカラコンを入れ始めて、紳士的な彼を見て、少しホッとしたんです。」
彼女は「なんででしょうね。どんな彼も好きだったはずなのに。」と、自虐気味に微笑んだ。
「彼が……彼でいられるのはきっと、みなみさんの前だけなんだと思います。私は………そろそろ譲らないといけないのかも…しれないですね。」まりあさんは静かに笑った。
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