第16話
私の学生鞄に紛れてしまった忘れ物を届けて欲しいと、親から連絡があった。お母さんからのライン。地図も画像で送られてきて。私はその場所に行っただけだった。
見たことも無い古びた建物がそこにあった。まるでこじんまりとした学生寮みたいな建物で。
ラインを見返す限り、この場所では間違いなく。
お母さんの仕事は夜の時間帯がおもで、工場仕事だった。だから昼間のこの時間帯だったここへは遊びに来たのかと思っていた。
あたりを見渡してもお母さんの姿はなく。インターホンもないその建物。
どこ?と、メッセージを送っても、『ついた?中に入ってきて』と私を困らせることを言ってきて。
中?
この古びた建物へ入れと?
扉を開け、恐る恐る足を進めるも、お母さんらしい姿は見当たらない。
2階へと登る階段。
細長い廊下には、何個かの扉があり。
どうすればいいか分からない私はお母さんに電話をかけることにした。
スマホをタッチしようとした時、「誰だ?」と、低い声が耳に届いた。
振り返れば、漆黒の髪が、視界に入ってきて。
お母さんの声は、こんなにも低くない。
―――この時、逃げていれば良かった。
もし逃げていれば、こんな事にはならなかったかもしれないのに。
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