第14話



「どうしよう……」




 さっきから口をついて出るのは、ため息と 「どうしよう……」 の言葉ばかり。




 ………迷ってしまった。




 楠さまのお宅まではなんとか迷わず行けたのに、帰り道で迷うなんて。


 お使いを果たしたあと気が緩んで、近くを見て帰ろうなんてバカなことを思いついたからだわ。




 ここは、どこだろう?




 右は 田圃が広がってる。


 植えられたばかりの小さな稲の苗が、きちんと整列して風になびいてる。




 左を見れば 町中へと続く道。


 だけど入り組んでいて、何度行っても迷って田圃へ出てしまう。




 何度目かのため息をついて、私は空を仰いだ。




 どうしよう。山の端に夕日が差しかかった。

 もう日が暮れてしまう。




 うろうろとさまよっても足が疲れるだけだと気づいて、田圃の中にぽつんと立つ大松の根元にあった石に腰を降ろしてからどれだけ経ったろう。




 誰かに道を尋ねようにも、行き交う人はまばらで。

 それに恥ずかしくて声をかける勇気が出ない。




「どうしよう……」




 何度となく繰り返した言葉がまたぽつんと落ちた。




 ふと、こちらに近づく足音が聞こえる。




(………あ、また)




 顔をあげると、朱の色の風景のなか、こちらに向けて誰かが道を歩いてくる。



 兄さまと同じくらいの男の子だった。



 風体ふうていから、どこかの武家のご子息に見える。

 もしかして兄さまと同じ日新館に通っているお方かもしれない。




 ――――兄さま。




 きっと今ごろ心配されてる。

 そう思ったら、涙がでそうになった。



 泣いてはいけない。人前で泣くなんて。

 せめて、あの男の子が通り過ぎてから泣こう。



 そう、思ったのに。











 ※風体ふうてい……その人の素性がうかがわれるような外見上のようす。身なり。



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