うちの妹がドラゴンになった件
ハチニク
プロローグ
「ナツ兄〜、早くして〜!」
「ちょっと待て〜、今行く〜」
我が家の二階にあるゲーム専用部屋にいた妹の
俺、
時刻は二十一時。
この時間になったら始まる朝方まで続くゲーム対決に俺は呼ばれた。
今ではすっかり日課になった。
柚葉はRPG好き、そして俺は格闘ゲーム好き。
毎夜、RPGであれば協力プレイ、格ゲーであれば対決と言う流れがあった。
そう、俺ら兄妹は
まぁ、兄妹と呼べるかは微妙なところだが。
言わば、親の再婚の末にできた義妹という訳で、血は全く繋がってない。
ただ、俺が十歳の頃に再婚したので、今、十七歳の俺からすれば、本当の妹も同然。
見た目は全く違うが。
二階の部屋に駆け上がると、パーカーを着ていた柚葉が自信ありげの表情で一本のゲームソフトを手にしていた。
俺は目を疑った。
「お前、それまさか!?」
ソフトの表紙には『サタンビースターズ』というタイトル。
あとは『中古セール』、『560円』の赤い特売シール。
「フフッ、ナツ兄が欲しがってた格ゲー……だぜ」
「なんだとッ! 他県に行って探しても……無かったのにっ! いったいどこで!」
「え……近所のブクオフ」
「……なんとぉぉ!! 褒めてつかわすぞ、妹子よ」
「そこまで言われると照れるぞ、兄者よ!」
なんとも満足げな表情で。
すると柚葉がインキャの雰囲気を漂わせながら、こう言ってきた。
「にしても、こんなクソゲーなんで欲しかったの? まじで解せぬ」
「サタンビースターズは確かにクソゲーだよ。売上本数も驚異の4000本行かず。だが、言い換えれば、世界に4000本しかないプレミアクソゲーだってことだ。分かんないか、この凄さが?」
「いや、そう聞けば、激レア感満載だけどさ。結局はクソゲーじゃんね」
いや、間違いない。だが、まさか近所のブクオフだとは。それにたったの560円で……。
「サタンっ! サタンっ!」
手を振って踊るテンションの高い柚葉に俺は、
「言うなら、『ビースターズっ! ビースターズっ!』だろ。サタンシリーズ自体はクソゲー中のクソゲーだからな。にしてもやっとプレイできるのか! ついに最推しの《
「うわっ出たよ、ナツ兄の
「おい、魔獣オタク言うな」
まぁ、確かに俺はゲームオタクでありながら、魔獣オタクだ。
この部屋にも、自作の《黒炎竜リヴァルディア》のフィギュアがいくつか置いてある。
原作ゲーの不人気もあってか、市場では一切販売されてないから仕方なく自作だ……全く。
でも……だからこそっ! 俺の愛してやまない二つの
壁棚に飾られた自作リヴァルディアフィギュアを一つ手にして俺は惚れ惚れしくいつものように言った。
「全長100メートル越え、
「
ため息交じりで話を遮られた。
確かに、この話をするのは何度目だ?
にしてもちゃんと覚えてくれる辺り、やっぱ優しい奴だな、こいつ。
まあ、真面目に耳を傾けてくれるのが柚葉だけってのもあるがな。
やはり持つべきは……オタクの妹だな。
「よくわかってんじゃんか」
そう感心した所で、柚葉が謎に真剣に頭を抱え始めた。
「あのね! ナツ兄、このままだったらやばいよ? それにさ、ナツ兄が学校で女子と話してる姿、一度も見たことがないんだけど。やっぱり、魔獣オタクは……きびいって」
…………ひどい言いようだな。
だが柚葉よ、お前も中々だぞ?
「そう言うお前もゲームオタクだってことがバレたら、高校生活終わりだな〜。俺がバラしてやろうか?」
「ちっ! うっぜーうっぜー! まじでボコボコにしてやるから早く、サタンビースターズやろうぜっ!」
プンスカプンスカと子供のように不機嫌になった。
と言うのも柚葉は実際、結構可愛い。
黒髪
家ではクソガキ妹でオタクだが、高校では本性を隠しているので案外、モテているのだ。
「お前が俺に格ゲーで勝てるわけがないだろ、雑魚妹子」
と煽ると、俺にプレステ2のコントローラーを思いっきり投げてきた。
ってなんだ……?
コントローラー、ベトベトじゃねえか。
しかも、なんだこの黒いつぶつぶ?
柚葉がゲームソフトを開けて、ディスクを取り出そうとした瞬間、俺は必死に叫んだ。
「おい、待てっ!!」
危なかった。
ベトベトの原因は彼女の手だ。
先ほどまで食べていたポテチ、のりしお味の残骸が手にびっしりと付いていたのだ。
キョトンとした顔で、こっちを見てくるので俺は、年上として道理をしばしご
「ベトベトな手じゃあ、ディスクが泣くぁ。早く手洗ってこい、妹子。……いや、芋子よ」
「いもこ?」
彼女が一階の洗面所で手を洗っている頃に俺は早速、ゲームを起動させ、ディスクを挿入した。
ゲームのイントロ画面だ。
《
そして、画面の大部分を占める我が推し《黒炎竜リヴァルディア》。
「マジ尊い……。 "人生に一片の悔いなし"。……ってリアルで使う時がまさか来るとは。……って、あ」
推しを眺めてて気づかなかったが、『Press Any Button』という表示があった。
ただ、Xボタンをどれほど連打しても、反応がない。
「ん? なんだ、動かねえんだけど」
他のボタンを試すが、やはり画面はピクリとも動じない。
ちょうど、芋の
「おい、妹子〜、これ壊れてるぞ? ボタン反応しねえよ?」
「うっそー! ジャンク品じゃないはずだけどー」
そう口から漏らし、彼女もXボタン、○ボタン、△ボタンと全てのボタンを押していくが、やはり反応がまるでない。
「まじか〜。期待させやがってよ〜、この展開が一番キツイぞ〜」
まさに、ずっと大便を我慢してた時にやっとトイレが見つかったのに、全ての個室が使用中だった時の気分。
すごく胸糞が悪い。
糞だけに。
「テヘヘ、ほんとごめん! 明日、返品してくる〜」
首を傾げて、可愛らしく言われた。
許しを求めるときにする技だ。
小賢しいが、許してしまう。
「別にいいよ。十何年前のゲームだからな。仕方ないわ」
共にコントローラーを床に置き、「まじかー」と天井を見つめた。
すると、なぜか突如、画面が白く光り始めた。
柚葉が眩い光を見て、
「なんだー、やっぱ壊れてなかったじゃーん」
「あぁ、そうみたいだな。さっきは文句言って悪かった。やっぱり出来したぞ、妹子よ」
「照れまするぞ、兄者」
と先ほどと似たやり取りを再度、繰り広げる。
仲良くハイタッチをして、コントローラーを再度握る。
が、白く光り始めた画面が容赦なくさらに強く光る。
「あれ……なんか、これまずくねえか?」
「なんか……やばいっぽいね……」
柚葉の不安に駆られた表情も次第に光に包まれた。
どうしよう、完全に視界を失った。
周囲の音も聞こえない。
部屋に漂ったのりしおポテチの匂いも全部が全部、消えていった……。
うちの妹がドラゴンになった件 ハチニク @hachiniku
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