第91話

校門の前でそのまま喋っている訳には行かず、私たちはゆっくり歩き出した。とりあえず、傘が買える近くのコンビニまで和臣が連れていってくれるようで。





「この前、弟が入院してるって言ったでしょう?」



雨の中、ゆっくり歩く。

ほんとにもう足が治ってるらしい和臣は、私の方を見た。



「昔から心臓が悪いの、ずっと入退院の繰り返しで、生まれてきて八割ぐらい、病院で過ごしてる」


「·····うん」


「両親は医療費を稼ぐために他府県で働いてて、あんまり家に帰ってこないの」


「じゃあ、ずっと1人で留守番?」



和臣が首を傾げる。



「ううん、兄がいる。っていっても、結構遊びに行ったりで、気まぐれで、あんまり侑李んとこには来ない」


「侑李?」


「弟の名前」


「そう·····」


「だから、侑李には私しかいないの。私に彼氏が出来て、遊びに行くようになって、お見舞いに行かなくなったら、侑李は一人ぼっちで過ごさなきゃなんなくて」


「うん」


「だから、侑李が良くなるまでは、絶対誰とも付き合わない。放課後は友達さえまともに遊んだことないの·····。放課後は侑李の時間にしたいの。土日の休みも·····。侑李が1番なの·····」


「うん」


「もし、遊びに行って、発作が起こって、万が一の事があったら、私はずっと後悔する。どうしてその時そばにいなかったんだろうって」


「·····そうだな」


「和臣だから、断ったんじゃないよ。和臣じゃなくても、断ってた」

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