第74話

「ごめんなさい·····。ごめんね」



和臣は何も言わず、ゆっくりと私の腕を離した。

私はしゃがみこみ、雨と水たまりのせいでずぶ濡れになった松葉杖を拾った。


こんなに濡れてしまっては、もう乾くまで使えなくて。




「諦めるしかねぇのか?」


足が痛いはずなのに、和臣は私と同じようにしゃがみ込んだ。



「うん」


「もし、万が一、密葉が俺の事を好きになっても、付き合えねぇんだよな」


「そうだね」


「多分、俺、諦めきれないと思う」


「うん」


「·····分かった、もう、ここで密葉を待つのはやめる」


「·····うん、そうして」


「弟、お大事にな」



和臣が、ずぶ濡れになった松葉杖を受け取った。



「和臣も、足大事にして·····」


「そうだな」


「立ち上がれる?足痛いなら·····ってか松葉杖、それ使えないよね。今から新しいの借りれるか聞いてみようか?」


「いいよ、自分で何とかする。また優しくされたら、明日も会いに来るって言いそうだから俺」


「··········そっか」


「··········」


「じゃあ、帰るね」


「ああ、ありがとな」



私は立ち上がり、和臣を背にゆっくりと歩き出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る