第44話

病院の中に入り、傘を畳むと、男性からもう一度「ありがとう」とお礼を言われた。硬派っぽい彼は、私に2回もお礼を言ってくる。


明るい病院内では、彼の瞳の黒さがやけに目立った。

スッとした瞳。

薄い唇·····。



「いえ、濡れませんでした?」


「いや、逆に濡らせちまったな。悪い」


「気にしないでください」



真面目っぽい、黒髪が良く似合う硬派な顔つきなのに言葉がワルっぽく、ちょっと驚いた。




「あんたもここ通ってんの?」



濡れた傘を傘専用のビニール袋に入れている時、首を傾げる彼がそう言った。

通ってる。といえば、通っているけど·····。


通院では無いわけで。



「弟のお見舞いに」



小さく笑いながら「では」と、そろそろ侑李の病室に戻ろうとした時、



「待って」



松葉杖の彼に呼び止められ、私はもう一度彼の方へと振り向いた。松葉杖を使いこちらに歩いてくる彼の耳には、銀色に輝く輪っかのピアスが付けられていた。

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