第38話
──────
「すごっ…、はる、すごいな」
まるでおとぎの国のようだった。
見渡すかぎりの、7色に光るイルミネーション。
住んでいる県をまたいで、1泊の旅行に来ていた。
今日はクリスマスではないけれど、クリスマスツリーのイルミネーションが有名なここは、夜の時間だけどカップルや家族が多かった。
7色の光を見て、何度も「綺麗だな…」と、嬉しそうにする乙和くんを見て、私も笑った。
「うん、綺麗…、来てよかった…」
まるで、目に焼き付けようと、ずっとずっと綺麗なイルミネーションを見続ける乙和くんが、とても愛おしく、悲しかった。
乙和くんは思っているのだろうか?
〝もしかしたら、最後に見るイルミネーションかもしれない〟と。
「…とわくん」
「ん?」
乙和くんの優しい顔が、私に向けられる。
夜だから、色つきの眼鏡をかけていなく。
イルミネーションが反射して、乙和くんの頬が7色に変わっていた。
「私…いろいろ勉強したの…」
乙和くんの病気のこと。
失明した人の体験談…。
目が見えなくなって、困ること…。
「それでも、乙和くんに、すごく失礼なことを言っちゃうかもしれない…」
「…うん」
「ごめんね…」
「そんな事ない、俺は本当に、はるがそばにいるだけで嬉しいから」
「乙和くん…」
乙和くんは診断されてから、バイト先で失敗してはいけないと、迷惑をかけてはいけないからと、バイトをやめたらしい。
それでもやっぱり、目が見えなくなるという怖さや、私と別れた事の悲しさで、何もしたくなく働くのが苦痛になった…と、教えてくれた。
私がそばにいることで、その苦痛は軽減されているのだろうか?
まだ、私に気遣いがある彼…。
「もし、はるの目が見えなくなっても、はるの耳が聞こえなくなったとしても、俺ははると同じ道を選んでた。絶対はるを手放したりしない」
反対の立場でも…
目や、耳が聞こえなくても…。
「知ってる?乙和くん、本当の愛の話…」
「え?」
「本当の愛は、目の見えない男性と、耳が聞こえない女性から生まれるんだって……。そういうの、前に読んだことがあって」
「…」
「その時は、どうやってコミュニケーションをとるんだろうと思ってた。男性が喋っても女性は聞こえない…。女性の人が紙に文字を書いても、その人に見えないんだから…」
「…」
「でも、今なら分かる気がする…」
「…」
「そばにいることが幸せ…、それだけで幸せなの。…大事なのは言葉で気持ちを伝えるだけじゃない……」
「…」
「私も……、乙和くんのそばにいるだけで幸せだから…」
「…はる…」
「……乙和くんも、同じ気持ちなら、これって本当の愛になるのかな?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます