第39話

乙和くんの目尻には、少しだけ涙が浮かんでいた。涙脆い乙和くんの涙も、7色に光る。



「はる…」


「うん」


「本当は、ずっと躊躇ってる……」



知ってるよ、

…乙和くんは、優しいから。



「俺のせいではるに苦労はかけたくない…」


「うん」


「はるが、もしかしたら影で泣くかも、って思うと…」


「うん」


「はるの親も、きっと反対する…」


「うん」


「俺のせいでって…」


「…うん、」


「はる」


「だけど、乙和くんは、もし見えない私が苦労かけても、私のことで泣いても、乙和くんの両親が反対しても、全部全部私のせいでも、そばにいてくれるでしょう?」



乙和くんの目から、透明な涙が流れていく。


乙和くんは何も喋らなかった。


ただ、静かに泣いていた。




「はる……」



優しい瞳が、私を見つめてくる。



「俺…、」



ゆっくり近づいてきた乙和くんは、私の額に、自身の額を当てた。



「見えなくなったら、…どこにいるか、分からないときも、…はるの名前呼んでいい…?」



涙声の乙和くんの声をきけば、私の方も、目の奥が熱くなった。



「…あたりまえだよ…」


「…いっぱい呼ぶよ?」


「いいよ、いっぱい呼んで…、呼ばれると嬉しい」


「ずっと探すよ…」


「そばにいるから、絶対に見つけられるよ…。探さないと許さないよ…」




涙腺がゆるみ、私も静かに涙を流せば、乙和くんの指が涙をふき、視界がクリアになった。



「はる…」


「うん」


「はる」



乙和くんの、大好きな乙和くんの顔がそっと、下へと向かう。

そのままゆっくりと、唇同士がふれあった。



「はる、」


「うん」


「はる」


「うん」


「はる…」



何度も何度も名前を呼ぶ乙和くん…



「いるよ、ここに。そばにいるよ…」



そう言って私からキスをしようと、顔を上げようとすれば、







「──……愛してる」



本当の愛の、愛の言葉を呟いた乙和くん…。




そんな彼を抱きしめれば、「ありがとう…」と、泣いているのに、嬉しい感情がこもってる呟きが耳に届いてきた。

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