第3話
ゴーデンウィークがあけても、私と早川乙和くんの関係は変わらなかった。
「小町さん」と、私の名前を呼ぶ早川乙和くんは今日もかっこいい。
早川乙和くんはノートの時だけ私に関わってくる。朝はたまに「おはよう」と言われる事はあるけど、その他の時間は友達と一緒にいることが多い。
派手なグループの一員である早川乙和くんとはと昼だって共にした事がないし、ましてや一緒に遊んだことだってない。
そんなかっこいい彼は、友達らしい人からは「乙和」って呼ばれていた。
友達でもなく、ノートを貸しているだけの私は、「早川くん」。
「ごめんね、毎回借りて」
「ううん」
「あ、今日はチョコの大福買ってきました!」
ニコニコと笑う彼は、小さくて丸いお饅頭みたいなものを、いつものように私にくれた。
受け取り「ありがとう」と笑う私に、「そのチョコ美味しんだよ」と、早川乙和くんがノートを受け取る。
チョコ系のお餅は大好きだから、食べるの楽しみだなあと思っていると、「小町さんさ?」と早川乙和くんが私に話しかけてきて。
「今更だけど、彼氏とかいたりする?」
「え?」
「やっぱまずいじゃん?いたら。俺の彼女なのに〜!って」
そんな、彼氏なんて…。
地味で可愛くないのに。
生まれてこの方、いた事がないのに。
「い、いないよ、」
顔を横にふれば、ふ、と笑った彼。
「そっか、なら良かった」
「いるわけないよ、可愛くないし…」
「そう?小町さん可愛いと思うけど」
「え!?」
「普通に小さいし、女の子って感じ」
そんな事、言われたことがなく。
確かに私は小さい。
身長は152センチ。
けれども……。それは体型だけでは?
「早川くんこそ…、彼女とか…」
早川乙和くんの言葉に照れて頬が赤くなっていたから、少しだけ顔を下に向けた。
「いないいない、3年なる前に別れたし」
「…そうなの?」
「うん、今は募集中」
「…」
「ってか、乙和でいいよ?早川くんって長くない?」
「…そうかな…?」
「早川くんってのも、新鮮でいいけど」
次の日、早川乙和くんは私の事を「おはよう、はる」と下の名前で呼んできた。
それに対して、あまり男の免疫がない私はドキドキしっぱなしで。
私が彼の事を「乙和くん」って呼べば、「おお君付け、それも新鮮」って笑っていた。
「乙和〜、お前また小町さんから借りてんのかよ〜」
休み時間、乙和くんが私の歴史のノートを写しているとき、そう声をかけてきたのは乙和くんと一番仲がいい
「そー」
「俺の見せてやろっか?」
「お前のは字じゃない」
「誰がミミズ字だ」
「勇心、ほぼ寝ながら書いてるもんな」
「起きてるわ、……ふーん、確かに見やすいな。俺もこんど貸して貰お」
「だーめ、これは俺専用だもん」
俺専用…。
「はあ?」
「な、はるちゃん」
乙和くんが、いきなり話しかけてきて。
また頬を赤く染めてしまう…。
「え、…?」
「別に付き合ってもねぇじゃん?」
「はるぽんのノートは俺のなんだわ」
「ふうん?」
「見たかったら、俺の貸すわ」
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