第3話

その建物は、ビルとか、寮とか、そんな構造ではなかった。


俺がその建物の中に入った時、やけに大きいブザー音が鳴ったし、「分からないことは中にいる先輩に聞いてね」と、全く説明しないサングラス男との間に、1つしかない出入口のシャッターが閉まり、もう外部との連絡は遮断された。



──まるで、刑務所。

俺は囚人扱いか、と。



確か俺の部屋は、3階だったなと、その出入口付近にある階段を登ろうとした時だった。



「どうも」



と、上の階から、男が降りてきたのは。

多分俺と同い年。

けれども背が高いのは、見るからに分かった。

初対面の俺に表情を崩し、「お前が新しい住人?」と、足を止める。


二重で、眼鏡をかけているのが特徴的だった。ずっとこの建物の中にいるためか、やけに肌が白い。



「ああ、そうみたいッスね」



ぶっきらぼうに言えば、「ここの事、教えてあげてって言われてるんだよね。えっと、めんどくさいから今から説明していい?」と、男は笑いながら言う。



今から説明?



「はぁ、よろしくお願いします」


「はは、いいよ。敬語なんか。俺は同士なんだから」




同士…。

その意味が分かり、「じゃあ無しで」と男のいる方に近づけば「俺はしょう。お前は?」と名前を聞かれた。



千尋ちひろ


「ふうん?女みたい」



初対面で何言ってんだと思いながら2階へと登る。



「あ、さっきいた1階が、お風呂と飯あるとこ。それから『報告』」


「…『報告』?」


「1日に1回、その日あったことの報告をするだけ」


「へぇ…」


「パソコンあるだけだから、勝手に起動すれば繋がる」


「…」


「んで、2階は…用済みになった人間を置いとく場所」



用済み?



「3階からは各自部屋。4階は、個室と、一旦連れてこれた女を入れとく部屋がある」


「女?」


「聞いたろ?好きに使っていい。炙るなり、監禁しても。殺しても。俺たちは罪にとわれない」


「…聞いたけど…」


「ズレることはあるけど、大体は週一で女の入れ替えがある。だから早めに自分好みの女を捕まえないと、いい子はみんな取られて売れちゃうぞって話な」


「…ここ、窓がおかしい。なんで鉄格子がある?」



廊下の窓を見れば、誰も出られないように鉄格子がはめられていた。

女が逃げないようにか?と思ったけど。



「ああ、それは女が自殺しないようにするため。──俺らの相手をすると死んだ方が楽、って考えするから」



にっこりと笑った勝。




「じゃあ案内終わり、千尋の部屋はここ。女の叫び声いっぱいするかもだけど、これからもよろしくね」




握手を求められ、そっと手を差し出せば、「千尋はどんな異常性癖を持ってんだろ、楽しみだなぁ」と、目を細めて笑ってきた。



その目に、憎悪がし、背筋に何かが走りすぐに手を引っ込めた。



「…ああ、よろしく」

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