第73話
1…2…3…と、それを数えてみる。
見える限り、それをパズルのように並べてみた。だけどまだぼんやりと見えるだけ、揃える事は不可能で…。
「揃えたいのか?」
夕食の時間に来てくれたユウリが、私の横に座り手を伸ばしてくる。小さい欠片が、ユウリの手で動く。
私の宝物を、ユウリが触っている。
「これ、シイナか?小さい時の写真なのな」
穏やかに笑っているユウリが、それを少しづつ揃えてくれて。「1枚足りないな…」と、声のトーンを落とした。
「失くしました…」
「どこで?」
「分かりません、ユウリさんからポーチを頂く前はずっとポケットの中に入れてましたから…」
「そうか」
「どこ足りてませんか?」
「親?か、シイナの。親の手元部分がない」
「顔は残ってますか?」
「ああ、残って……、」
ふと、ユウリの声が止まった、
「…うん、残ってる。優しそうな人だな」
けど、すぐに声を出したユウリ。
「…はい、優しかったです。その写真、私のワガママで…蛍を見に行った時の写真で…」
「そうみたいだな、」
「その後に亡くなったんです……」
「亡くなった?」
「…母が亡くなりました、車の事故で。帰り道、眠っていた小さい私を母が庇って…亡くなったようでした」
私は、写真の中の、母がいるであろう場所を指でなぞった。
「父は、母が大好きでした、その一年後です、身を投げたのは…。母がいない世界が…父は耐えられなかったようです。私は小さかったので、それを教えてくれたのは…親戚ですが、」
「…」
「この写真は私の宝物なんです、1番幸せな時間だったから……」
「そうか…」
私は無くさないように。
ポーチの中に折れないように入れた。
「…父が亡くなったあとのことは、もう思い出したくありません…、いつの間にか借金がある生活でしたから…」
「…辛かったな」
「そうですね…、そう思うと今は幸せですね…
。ユウリさんがそばに居てくれるから…」
「…ああ」
「……ユウリさんは、ホタルみたいです。いつも私にヒカリをくれる存在だから…」
「そうか? それを言うなら、シイナの方がホタルだと思うけどな」
私が?
「あんたはすごく、心が綺麗なんだと思う」
心?
「写真、見つけてくる。目が見えるようになったら完成させような」
もう、見つからないはずなのに。
どこにあるのかも分からない。
道に落ちていたのなら、きっと誰かに捨てられている。
目が見えない私は、ユウリは優しい表情をしていると思ってた。
だけど実際、ユウリがポーチの方を見て怖い顔をしていたのを、私は知る由もなく。
ユウリさんの温かみに触れながら、私はある事を、胸の奥にしまった。
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