第63話

──────




たくさん、疑問があった。

それを遠回しに考えれば、大体の想像はつく。

そんなこと思っている俺の頭の中はやけにスッキリしていた。



事の始まりは、多分タカの言っていたケイシの女の事件。



ケイシの女がミドウ組に借金をおわされ、風俗に沈められたと。


きっとケイシは助けようとしたに違いない。けれども相手はミドウ組。

ミドウ組の事は知っている。

じいちゃんがいる七渡組とは仲が悪い。

つーか、昔抗争があったところだ。

その抗争現場は……昔、霧島とウサギを燃やし、晴陽に忠誠を誓ったところ。

忘れるわけがない。



今回の俺と同じように、沈められた女を助けようとしたけど、それは不可能だった。


…──女を人質に取られているようなもんで。下手に手を出せば殺されていた…。


女が…確かに名前はマユ。

そうタカが言っていた。

マユは戻ってきたものの、病気になっていて…。



タカは、付き合っては無かったと言っていた…。



付き合っては無かった…。

付き合ってはなかったのに?





どうしてじいちゃんは結婚しろと言ったのか。

どうして俺は〝ここ〟にいるのか。




ケイシは死にたいと思ってる…

マユって子のあとを追いたいと…。


守りたい女を作れば、ケイシは死なないと?





…違う、そうじゃない。


じいちゃんの考えていることは、そうじゃない……。




スマホを取りだし、着信履歴から相手をみつけ電話をかけた。3コールぐらいで繋がった電話。



『どうしました?』



一声目は、敬語らしい。



「この前、言ってましたよね。ケイシさんの女が沈められたって。それっていつぐらいの話ですか?」


『え? あ…あー…、なに、いきなりなんだよ?』


「教えてください」


『4.5年…まあそれぐらい。ソープにいたのは半年ぐらいだっけな…』



4.5年。

ケイシの年齢はまだ20歳半ばぐらい。

このままいけば若頭になると言われている。


まだ、ケイシは若頭じゃない。



「付き合ってなくて若頭でもないのに、女は沈められたんですか?」


『あー…』


「そういう事ですか?」


『そういう事。……当時、まだケイシさんはミドウ組にとっても相手する存在じゃなかった。若手だし、狙うなら組長の首だろ、普通は。若手で、ただ知り合いだけの、自分の女でもないやつを…そもそも一般市民の女に手を出すのはこの世界じゃご法度』


「…」


『ケイシさんが有力な若手と知っていて、尚且つ、女と親しい事を知っている奴しか、普通は狙わない』


「……女はどういう経緯で、向こうに行ったんです?」


『闇金で金を借りようとして、基本額じゃない金を貸せるって言われたそうだ。普通ならありえない。まだ10代だった。当然、金を借りる時は身分証をだす。その時に名前を知られたんだろう』


「…」


『マユさんは俺らんとこの風俗で働いてた。それでたまたま、嫌がらせでマユさんが盗られたと思ったけど、…違う。誰かがマユさんを売った。ケイシさんの好きな女と分かって…』


「…」


『その裏切り者は誰か分かってない』


「…さっき、黒の軽がケイシさんのマンションの下で停まってました。車のナンバーは2645です」


『は?』


「昨日は2台、白のセダンタイプ725。もうひとつが白のトラック3668」


『え?』


「一昨日も、黒の軽。ナンバーは723。シイナがこのマンションに住んでからの、俺が見た限りの車のナンバーは覚えてます」


『は、は?』


「近くに歩いていた人の顔も…。前に、族やってた時、そういうの覚えるのが当たり前で。習慣がまだ残ってるんで」


『……』


「次に狙われるのはシイナですね」


『……』


「組長の孫が気に入った女として、シイナが狙われる……。その裏切り者が組にいる限りは。だから手を出せないようケイシさんの元にやった…。俺じゃ守れないから…。じいちゃんの考えそうなことだった…」


『おまえ…』




もしかしたら、ケイシは薄々気づいているかもしれない…。




だからケイシはシイナに嫌われようとする。



裏切り者が分かり、全てが解決出来れば、シイナは解放されるから…。

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