第64話

結局、空気が読める私はそんな事を聞かなかった。隼翔から逃げるように「帰る」と言い、私は大駕の方を一切見なかった。


せっかく辰巳さんに会えたのに。

せっかく頑張って化粧したのに。

せっかく学校から走ってきたのに。



あんな事あったから大駕の家にも行けず、私は一日ぶりの家と帰ってきた。駐車場にはお兄ちゃんの車があって、親の車は無く。


家にいるのは仕事が終わったお兄ちゃんだけみたいだけど。



お兄ちゃんはどこかに出かけるのか、玄関から出てきたところだった。


急いでシャワーを浴びたのか知らないけど、まだ少し髪は濡れたままで。

ジーパンに、ロングTシャツとやけにラフな格好をしていた。



「どこか行くの?」


「密葉んとこ行ってくる」



ああ、そういえば、今日は金曜日。

毎週って訳じゃないけど、仕事が休みが重なった土日に、お兄ちゃんは密葉ちゃんに逢いに行く。·····遠距離になった彼女の元に。



なんでも、密葉ちゃんの弟が病気で、転院することになったんだとか。


私も数回会った。

小柄で可愛い密葉ちゃん。

正直言って、初め見た時、お兄ちゃんには‘合ってない’と思った。

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