第65話

その足が開く感覚に、昨晩のことを思い出した私は、「あ」と声を出した。



「どうした?」



壱成さんは、私の足を開く手を止めた。



「思い出しました」


「何を?」


「私、あまり昨晩のことをあまり覚えていなくて…」


「うん」


「足を広げた方が痛くないと言われた気がするんです」


「それは言ったな」


「でも、背中がぞくぞくするから、足を閉じたいと言っても、壱成さんがダメって……」


「ああ、」


「い、今も、」


「うん?」


「足をさわられて、少し……お腹の下あたりが、ぞくって……」


「うん」


「だからあの、あしを、」


「足を?」


「閉じないと、し、シーツを汚してしまう気がして……」


「ああ」



壱成さんが、私の足の間に指を運ぶ。

壱成さんの中指らしい指が、中心をなぞり、ビクッと肩が動いた私は無意識に膝を寄せようとした。



「い、壱成さん……っ」


「ん?」


「あ、足、……と、じてもいい……?」



壱成さんの腕にふれれば、柔らかく、甘い表情をした壱成さんが、私の頬に唇を寄せた。

吐息を漏らしそうになる私の顔を見て、嬉しそうな顔をする。




「だめ」




そのまま唇を重ねた壱成さんは、もう一度、記憶が無くなるような行為を続けた。









もしかしたら私は気絶をしたのかもしれない。昨晩もきっと気絶をしてそのまま寝てしまったのだと思う。そうでなければ記憶が無くなることなんて、滅多にないから。


今朝あった下腹部の違和感は、ジクジクとした違和感に変わった。痛みはないけど、──……なんだが凄く、気持ちが良かったような気がする……。



「起きた?」



壱成さんは起きていたらしく、起きた私を見て穏やかにそう言った。



「……あ、おはようございます……、」


「もう少し寝るか?」


「い、いえ、目はさめました」


「……まだ、入った感覚する?」


「少し……、壱成さん、どれぐらい入れていました?」


「さあ、気がついたら、やり始めて11時過ぎてるなって」


「行為をし始めたのって6時ぐらいでは……」


「うん」



だとしたら何時間……。

寝ぼけている頭で時間数を数えていると、「寝室、」と、壱成さんが呟いた。



「俺の部屋でいいか?」



壱成さんの部屋が寝室に……。



「はい」


「いいのか?」


「え?」


「毎晩抱いても」



毎晩……。



「あの、」


「ん?」


「毎晩ですか?」


「ああ、イヤか?」


「イヤではないですが……」


「うん」


「毎晩と、毎朝ではなくて……?」



私の言葉に、一瞬言葉を止めた壱成さんは、「ははっ…」と珍しく声を出して笑った。



「本当に、佳乃には負ける」



何の勝負もしていないのに、よく分からないことを言ってきた壱成さんは、もう一度、私に唇を寄せた──……。












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