第57話

壱成さんの夜勤の日に、私は実家に帰ることになった。壱成さんがいないなら用心のために、お兄ちゃんが「1人は危ないしその日に戻ってきたら?俺もいるし」と言ってくれたから。

壱成さんにその事を言うと、「俺もその方がいい」と了解を得た。


そんな壱成さんが夜勤の日の、夕食と夜食分の壱成さんのお弁当を作る。お弁当を見れば、思い出すのはやっぱりお母さんの顔だった。

毎日毎日、お弁当を作ってくれていたお母さん……。


お弁当をお弁当袋に入れて、箸も2食分入れた。

今日はお母さんと会う。実家に帰るのだから、会うのは当然で。そんなお弁当袋を見て、エプロンも外さずぼんやりとしている私に、壱成さんが近づいてくるのが分かった。



「どうかしたか?」



どうかした、これはどうかしたに、入るのだろうか?



「…壱成さん、私、お父さんとの仲は解決したと思っているんです……壱成さんとの仲を認めてくれましたから」


「……母親の事か?」


「はい、私は母と会話をしてません……」


「うん」


「……これから先、会話ができるのかなって」


「うん」


「時間が解決をしてくれると思いますか?」



これから、実家に帰ることがあれば。



「それは、俺からは何とも言えない。俺は佳乃が大切だから、佳乃が怖いなら解決しなくていいと思う」



しなくていい……?



「けど、佳乃が優しくていい子なのも知ってる」


「……壱成さん」


「本当は、母親と仲直りしたいと思っているのも分かってる」


「……どうすればいいか分かりません」


「時間がたっても、解決できないことはある」


「……」


「本来なら、俺だって、あの時話しかけなかったら佳乃と付き合うこともなかった。時間がたっても、俺が片思いなのは変わらなかった」


「……」


「時間が経っても、変わらないものもある」


「……」


「俺の気持ちだってそう」


「……気持ち?」


「時間が経っても俺の気持ちは……」


「……」


「100年経っても、気持ちは変わらない。ずっとずっとあんたが好きだ」


「……壱成さん」


「誰かが行動しないと、時間だけが過ぎて何も変わらない」


「……」


「だから、佳乃の母親とも、どっちかが行動に移さないとこの関係は変わらない」


「……」


「時間が解決するのは、もう忘れてもいいという気持ちが強くなるんじゃないか?」



忘れてもいい気持ち……。

簡単に言えば、母親に対しての気持ちを忘れてしまうということ。



「……そうですよね、」


「けど、第1に考えるのは自分のことだから」


「……はい」


「時間が経つことに逃げてもいい、という気持ちも、大事な事だからな」

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