第54話
自室に戻り、まだ着信が入っていないスマホを手に取って、壱成さんに電話をかけてみた。壱成さんはお父さんと何の話をしたの?
お父さんは壱成さんに失礼なことを言ってない?壱成さんとお父さんは、どこに行ってたの?
『…──佳乃?』
電話はすぐに繋がった。私は壱成さんの声が好き。壱成さんの声はとても温かいから。
「父が、帰ってきました」
『ああ』
「……」
『大丈夫、あんたが心配することは無い』
「……壱成さん」
『あんたのことを話して、家まで送ってもらった』
家まで……?
お父さんが、壱成さんの家まで?
「……どのような話を……」
『殴りたいかって』
「え?」
『あんたの父親に、俺を殴りたいかって聞かれた』
──殴りたいか?
お父さんを?
壱成さんが?
「な、なんて答えたのですか」
『殴りたいって答えた、嘘はつけなかった』
「……」
『そこからは、佳乃の話』
「…はい」
『結果的には、許してくれた。けど、週に一回は必ず顔を見せに来るようにとも言われた』
「それが、お父さんが言ってた約束ですか?」
『うん?』
「言ってたんです父が。約束を破ると家に連れ戻すと」
『ああ、それもあるけど、また別の話』
別……?
『一緒に住むなら、そういうこともなるだろうから』
「……そういうこと?」
『佳乃には手を出すなと』
……手?
「手を上げるな、ということですか?そんなの……壱成さんは私に暴力なんてしないのに……」
『そうじゃない』
「え?」
『卒業するまでは、……その、なんだ、万が一のことがあるから子供を作る行為はするなど』
「……子供?」
『セックスはするなって、その約束を破ったら佳乃は家に連れ戻すって言われた』
性行為をするな。それが、壱成さんとお父さんとの約束?
『……あんたの高校、卒業までは』
私の、高校卒業までは。
つまりあと2年間……。
壱成さんと私は裸で抱き合うことは無い、清いお付き合いをするということ。
一緒に住みながらも。
「……壱成さんは、その約束になんて答えたのですか?」
『守りますって、答えた』
「……それは、」
『うん?』
「これからあと2年、壱成さんとキスもできないということでしょうか?」
クスクスと、壱成さんの笑う気配がした。
『それはする、これからは毎日しよう』
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