第10話

そんな事を思いながら、夜、体調を取り戻しつつあった私は、自室の机で勉強していた。今日は連絡が無いだろうなと思っていた私は、少し落ち込んだ気持ちになりながらシャーペンを握りしめていた。

なんだか、スマホが気になって集中できない……。こんなことは今までになかった。勉強が疎かになるからと、SNSなどは禁止されている。

本当に、私がスマホを触るのは連絡手段だけだった。みんながやっているらしいLINEというアプリも、私はやっていなかったりする。

本当に今までスマホを気にしたことなんてなかったのに……。

こんな気持ちじゃダメだ、勉強しないとと、もう一度参考書に目を通そうとした時だった。

スマホが震えたのは。

肩がビクッと動き、もう鳴ることはないと思っていたスマホが鳴り、びっくりした私は慌てて画面を見つめた。

そこには登録されてない番号からの着信画面に鳴っていた。このスマホには、登録されている人からしか電話なんて来ないから。

この電話番号は間違いなく、壱成さんで。

嬉しい気持ちと、緊張で、一瞬にして手汗が滲むのが分かった。

駅員の人、渡してくれたんだ……。


「も、もしもし、……」


そう言った私の声も震えて、凄く小さかった。


『────…俺、』


壱成さんの声も少し小さかった。それでもその声は壱成さんだとすぐに分かった。低い声だけど優しさが含まれている声は、間違いなく壱成さんだった。


「……壱成さんですか?」


本人だと分かっているのに、確認してしまい。


『ああ、その……手紙受け取った』


「はい、あの……、すみません。この前は……」


『もう大丈夫なのか?』


「…はい」


『そうか、あんたが元気になったなら良かった』


穏やかなその声に、少し、緊張が解けたような気がして。


「あの」


『うん?』


「会えませんか?」


『え?』


「壱成さんに会いたいです」


え、と、また壱成さんの驚いたような、戸惑った声が聞こえたような気がして。


『俺に?』


「はい」


『……』


「すみません……壱成さんの都合も聞かずに……」


『いや、大丈夫。会いたい。俺もずっとそう思ってた』


その声のトーンが優しく、きっとスマホの向こうでは、壱成さんは笑っているだろうと思った。


「私に会いたいと思ってくださったのですか?」


『そうだな、──今からでも』


今から?時計の時刻は午後の21時過ぎ。

私に会いたいと、壱成さんが──……私に…。


「すみません……、あの、夜は家から出れそうになくて……」


断るのが辛かった。


『うん』


「朝、でも、よろしいでしょうか?」


『朝?』


「もしくは、土日の、お昼……」


土日は、お母さんたちに〝図書館で勉強する〟って嘘をつけば……。


『どっちの方があんたと早く会える?』


「え?」


『短い時間でも、あんたと会えるなら嬉しい』

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